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[タイルの浮き}―築10年、販売会社との交渉に踏み切る ―

管理組合の団結と、専門家の力で

1.大規模修繕スタート

kマンション管理組合
築1996年12月竣工 20戸 3階建 部分委託管理
理事4名(3年前から任期2年・半数交代制)修繕委員3名

2007年10月〜12月の予定で第1回大規模修繕を計画
管理組合が、第一回目の大規模修繕に向けて準備を始めたのは2年半前、8期の時でした。

理事会は、マンションNPOにコンサルティングを依頼。建物診断後、準備段階を経て、施工業者を決め、 マンションNPOの建築士の監理のもと修繕をスタートさせました。 2007年12月末には足場が取れる予定でした。

しかし、2週間で工事がストップしました。

2.いきなりの工事中断

大規模修繕が始まった矢先のことでした。

工程会議で管理組合は、「特に南面と西面の外壁のタイルが、数多く浮いている」という報告を受けました。 100〜200枚のかたまりで浮いている箇所が30以上、中には、500枚以上の部分も数箇所あるとのことでした。

「まさかと思いましたよ。外壁を見る限りまったくわかりませんでしたから」
報告を受けたとき理事長のIさんはこう思ったそうです。

しかし、マンションNPOの建築士から、築10年程度でこれほどタイルが浮くとは考えられないことや、タイルの浮きを放置すると剥落の危険があり、人命にもかかわるということが告げられ、ただごとではないのだと知りました。

通常、建物診断では可能な限りタイルを叩き、その音でタイルが浮いているかどうかチェックします(打検調査)。内側の壁はほぼすべてを打検できますが、外壁面に関しては、足場を架けてからでなければ、すべてを叩くことはできません。 建築士は、内壁の調査結果からみて、タイルの浮きが多いことは認識していましたが、 その状況は、経験を積んだ建築士の予想をはるかに超えていました。 詳しい内容は【次頁】 「事例2:築10年 タイルの浮き改修〜交流会報告〜」

3.さてどうする?

新たに見つかったタイルの浮きは、予定よりも500万円以上の工事費の増加を意味していました。
一戸当り25万円の負担増です。建築当初の施工不良が主な原因であるなら、販売会社に相応の負担を要望したいところです。

しかし「相手は大手の販売会社。こちらは素人。相手になるのだろうか」役員たちの頭にはそんな不安もよぎりました。 築10年をすぎていましたし、専門的な交渉になるのですから当然です。

背中を押したのが「やらないのですか!」という建築士の言葉でした。建築士は、この施工状況を見てだまってはいられない、データを揃えて協力して交渉すれば結果を出すことができると理事会に伝えました。

理事長は「総会で工事金額の承認をもらっている。交渉も何もしないで工事費の負担が増えるというのでは、住民に対して説明がつかない」と、自分が窓口になって交渉をする覚悟を決めました。

4.販売会社が視察にきたが

早速、販売会社に連絡を入れると、すぐにアフターサービス部の担当者と施工会社の建築士が視察に来ました。こちらは、理事、修繕委員、マンションNPOの建築士と事務局長、工事の現場代理人の計10名です。 理事たちもヘルメットをかぶって、一緒に足場に上がり実際にタイルを叩きました。

「浮いたタイルは乾いた音がするので、すぐわかりました」
自分たちの手で浮きの多さを実感したのです。

しかし、現場視察終了後の話し合いでは、驚くほどの意見の違いを感じることになりました。販売会社の担当者は、「タイルの浮きは確かに多いが、5%までは通常の経年劣化の範囲、さほど大きな問題ではない」「2年間のアフターサービス期間をすぎているので、対応責任がない」と。

これに対して管理組合側は「こちらの調査では、10%近く浮いているという結果が出ており、5%をはるかに超えている。しかも何百枚もかたまって浮いていて、浮きの箇所が階や面によって大幅に違っている。これで、原因が単純な経年劣化と言えますか?」「アフターサービス期間をすぎれば何の関係もないというのは、販売会社としてあまりにもお粗末ではないか」と主張しましたが、一切通じませんでした。
担当者は、自分たちでも調査をして、8日後に再度話し合うと約束して帰っていきました。

(上図)すべての外壁面の浮いたタイルがテーピングされ、枚数も記された。

5.社長あて要望書を提出

また来るとはいうものの、話が全く通じていないのですから、次回になにか進展があるとは思えませんでした。しかし、マンションは足場が架かったままで、施工会社にも待機してもらっているのです。

理事会と修繕委員会は、社長と監査役会宛ての要望書を作ることにしました。建築士は、タイルの浮き部分をすべて青いテープで囲み、写真に取り、浮きの数を細かく場所別に算出、「タイル浮き状況調査報告書」を作成しました。理事長は、要望書にその報告書を添付して送付したのです。

約束の8日後に販売会社の担当者は、調査結果を持ってやってきました。
「外壁タイルの浮きは全体の7.94%。その原因は、経年劣化と一部の施工不良の複合的なもの」と報告。 販売会社が許容範囲と主張する5%を超える部分に対してはタイル補修をすると主張しました。そして、一歩もゆずりません。

結局議論は平行線をたどりました

6.交渉相手が部長に。流れが変わった

理事会は、この交渉結果を踏まえ、もう一度社長宛ての具体的な要望書を送付し、今度は伺いたいと申し出ました。すぐに連絡が来ました。アフターサービス部の部長が本社で対応するというのです。 平日の午後5時からでしたが、理事も修繕委員も自分の仕事を早退したり中抜けしてほとんど全員が顔を揃えました。

部長は、「社長とも話をしています。自分が責任を持って応分の負担を検討します」と言いました。

理事会は流れが変わった、交渉のスタートラインに立ったと感じました。1週間の間に3度、話し合いのために本社に行きました。「この時はとにかく皆、必死にやりくりして集合しました。住民が納得できる解決方法にまでなんとか持っていきたいと、役員としての責任も感じていました」。理事会は、チラシや掲示、メールなどで住民にも状況を報告するようにしました。

実は、この交渉期間中、理事長はマンションで偶然この部長に出会ったそうです。彼は自分の目で現場を見に来ていたのです。理事長は、この姿勢があるなら必ず解決に向かうはずだと思いました。

7.納得のいく結果に

管理組合は、タイル補修はすべて、大規模修繕の施工会社にやらせたいと考えていました。現在修繕中なのですから、最も混乱のない方法だからです。しかし、販売会社は、マンションを建設したA社に補修をやらせてほしいと強く要望しました。

どの程度をどのように補修するかについても、専門的なやりとりを重ねた後、まとまって浮いている箇所の多い南面と西面をA社が補修し、残りの北面と東面を大規模修繕担当の施工会社が補修する案がでて、管理組合は了承しました。結果的に、販売会社が7割近い補修を引き受けたのです。

管理組合にとって、十分納得できる結果でした。すぐに工事が再開され、臨時総会を開いて住民に交渉結果の報告もしました。1月後半には晴れて足場が外れ、竣工します。理事長のリーダーシップと理事会と修繕委員の団結が、「工事費追加徴収なし」「大幅な耐久性のアップ」という実を結びます。

8.理事会、修繕委員会の皆さんの言葉から

・工事をストップしてよかった。補修してしまった後では、交渉の余地がなかったと思う。

・マンションNPOの建築士は、終始、管理組合の立場で励まし動いてくれた。業界とのつながりを持たない第三者の専門家の必要性を感じた。

・最初の交渉は窓口部門との交渉にならざるをえないが、意見に相当の隔たりがあると判断した場合には、経営層に文書で事実関係を通知・理解を求め、交渉に経営層の意思を反映してもらうことの重要さを感じた。

・会社の方針が決まってからの紳士的で誠実な販売会社の対応に感謝したい。

・理事の任期を2年にして半数交代にしていたことが、今回の一連の大規模修繕の準備や交渉を途切れさせることなく行えた要因だと思う。

9.マンションNPO建築士より

販売会社と取り交わすアフターサービス規準(無償補償期間の取り決め)には、 今回の「外壁タイルの浮き」のような建設時からと思われる施工上の不具合等に関する項目は、通常記載されていません。 このように負担するケースは稀で、一般的には、経年劣化で補修の責任はないと主張する販売会社がほとんどです。

対策としては、新築購入後、1、2年アフター点検の際に、経験豊富な第三者の専門家に建物の竣工時からの施工不具合(仕上材確認も含め)のチェックを依頼することです。

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