ホーム > 大規模修繕目次 >1.維持保全の目的とその手段 > 【次頁】 2.専有部分と共用部分を理解しよう

1. 維持保全の目的とその手段

清掃の三大目的
1. 環境衛生 (清潔で衛生的な環境づくり)
2. 建築物の延命(手を加えない建物はすぐに劣化する)
3. 美観の向上

 

 マンションは都市の居住形態として重要な社会基盤となりましたが、一方で時間の経過に伴い、建物各部の劣化が進み老朽化していきます。 また、居住性能や機能が、その後の生活水準に対応できずに陳腐化していくことも避けられません。劣化していくマンションの数は急速に増加していきます。

事後保全(経年劣化による事故や不具合が出てからの修繕)では生活への影響も、社会的影響も大きく、復旧のための修繕費も時間もかさみます。      [x1 修繕の用語説明]  (予防保全と事後保全)

建築基準法第8条では、予防保全(メンテナンス)が義務化されています。

維持保全の手段には、「点検」、「修繕」、「清掃」があります。また「修繕」と「改良工事」を併せて「改修工事」といいます。

建築基準法第8条(維持保全)
 建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に 維持するように努めなければならない。
2 (略)維持するため、必要に応じ、その建築物の維持保全に関する準則又は計画を作成し、 その他適切な措置を講じなければならない。(略)

 

 維持保全の目的

1. 資産価値の劣化、減損を防ぐ(美観・意匠性・都市景観との調和)
2. ライフラインの質を維持・改善する(給排水、電気、ガス、空調、防火・防災設備等の維持向上)
3. 経年劣化による事故や不具合を防ぐ(タイルやコンクリートの崩落事故、給排水の水漏れ事故)
4. 構造耐力の確保(対地震力の確保、耐久性能の確保)

※ 特に高経年マンションで問題が発生しています。

2. 高経年マンションの問題点 

住戸の居住性能 住戸面積の狭隘化 住戸面積が狭い、住戸面積が画一的で多様な規模の住戸がない、住戸内に洗濯機置場がない 
断熱性能の低下結露がよく発生する、省エネ仕様になっていない
設備の旧式化・陳腐化材料・機器の性能が老朽化・旧式化している、給排水システムが旧式化している、電気容量が不足している
建物共用部分の性能バリアフリーでない段差がある、手すりがない、エレベーターがない
防犯性能が低いオートロックでない、見通しが確保されていない、照明が薄暗い、又は不足している、防犯カメラが設置されていない、防犯に対する配慮がなされていない
エントランスの陳腐化内装仕上げ材、照明器具、集合郵便受け、掲示板当の金物類の性能、デザイン等のエントランスの雰囲気が陳腐化している
共用スペースの陳腐化管理事務所、宅配ロッカー・トランクルーム、共用倉庫、ラウンジ、プレイルーム、宿泊室等の機能がない
外観イメージの陳腐化仕上げ材、デザイン等の外観の雰囲気が陳腐化している
敷地内の性能バリアフリーでない段差がある、手すりがない
敷地内のイメージの陳腐化車道・歩道・広場等の舗装材料のデザイン・性能、屋外灯や外構工作物等のデザインが陳腐化している、緑化環境が整備されていない
付属・共用施設等が整備されていない集会所の機能が十分でない、駐車場・駐輪場・バイク置場等が不足している

3 大規模修繕(計画修繕)の基本 

出典:「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」国交省住宅局市街地建築課発行  (修繕と改良をあわせて「改修」としています。)

 マンションの居住環境を良好な状態に維持・改善し、その資産価値を維持していくためには、 修繕を計画的に行い、建物を適切に維持するとともに、 マンションの水準をその時代に求められる性能・機能に見合うようグレードアップする改修を行うことが必要になります。

(参考) 限界状態と耐用年数の関係
 日本建築学会では、構造体および部材に要求される性能限界状態は、 建築物の置かれる環境条件に加え、供用期間中の維持保全活動によっても左右されるところから、 維持保全の水準に応じて設計限界状態及び維持保全限界状態を下記の性能要素ごとに定めています。
○構造安全性 :軸方向耐力・曲げ耐力・せん断耐力の低下
○使用性    :使用安全性(コンクリートの剥落・ひび割れ)・漏水・たわみ
           振動限界値(固有振動数・変位振幅の変化)
○修復性   :修復費用が便益超過(設計限界)・計画的な修復費用に到達(維持保全限界)
日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針(案)・同解説」(2004.3)

下図で「維持保全を行わない場合」とは、
設計段階から維持保全ができない環境にある建物に対して設計耐用年数期間内の性能の確保を目的として耐久設計を行う考え方、典型的な例が原子力発電所の原子炉建屋です。
「維持保全を行う場合」とは、維持保全を行うことを前提として合理的な設計を行う場合の考え方を示しています。
分譲マンションは計画的な維持保全を行うことを前提として設計されています。

(注1) 構造安全性に対する維持保全限界状態は、鉄筋腐食またはコンクリートの劣化によって、 構造体および部材の保有する軸方向耐力、曲げ耐力およびせん断耐力に低下が生じる状態と定められており、 鉄筋が腐食し、かぶりコンクリートに鉄筋に沿ったひび割れが発生する時点、または、 凍結融解作用の繰返しによって構造体および部材のかぶりコンクリートが全体的に剥落してしまう時点などが相当

(注2) 耐久設計で想定する劣化現象としては、
(1)中性化、塩害およびその他の原因による鉄筋腐食
(2)凍害、アルカリ骨材反応、化学的腐食およびその他の原因によるひび割れ、 浮き、剥落、表面劣化、強度低下などのコンクリートの劣化などがある。

詳しくは、 本文下段   6. マンション寿命、いつまで?   を参照。

 

経済性

大規模修繕(計画修繕)は、その修繕を長期総合的に効率化することで修繕費を圧縮し、 総合的に維持費の低減をはかることを目的としています。 そのために、現状を正確に把握し、長期修繕計画を作成し、費用対効果のバランスを考え、 時期を定めて、同種工事(塗装、防水、設備工事など)や足場仮設が必要な関連工事を集約し、 効率化してまとめて修繕工事を実施します。

無駄のない合理性

 大規模修繕(計画修繕)は、共用部分を各部位ごとの修繕周期に基づいて建物の初期性能に戻す修繕を基本として、 既存部位の材料や設備機器をより新しく、より性能の高いものに取り替えて既存性能をグレードアップする改良工事や、 更に増築・改造によって新たな性能や機能を付加する大規模な改良工事も含まれます。
また人が日常の暮らしを営む中で工事を行うため生活障害をいかに低減させるかという特殊性があります。

大規模修繕の二つのタイプ

(1) 「延命型補修」     : マンションの長期耐用・長寿命化を目的にした改良工事
(2) 「ストック志向型補修」: マンションの長期耐用・長寿命化に加え修繕前より機能、 美観をグレードアップして資産価値を上げる為の改良工事を含む補修。「バリューアップ工事」と呼んでいるところもあります。

 具体例⇒大規模修繕事例

大規模修繕に取り組むきっかけは?

(1) 長期修繕計画の修繕予定時期が迫ってきたから。
(2) 日常点検の中で劣化が目立つようになってきた。
(3) 居住者からの要望やクレーム、漏水などのトラブルが多くなってきた。
(4) 定期検査報告で指摘を受けた。
(5) 管理会社や施工会社から提案を受けた。
などが動機になって、まずは、しっかりした建物診断を受けてみようというところから、はじめています。

大規模修繕の成否を分ける鍵は?

大規模修繕では、仕様、予算、時期、工程について、区分所有者、居住者の理解と同意を得ること、及び、 監理者や施工業者との合意を含めて、すべての関係者との間の意思疎通がうまくいくかどうかが、 成否を分ける最大の要素になっています。 (”大規模修繕工事には大規模なコミュニケーションが必要”)

 合意形成のプロセス

4.マンション修繕工事の特殊性

 維持保全や修理、改修に責任を持つているのは?

 区分所有法第3条で「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体を構成する。」 とあるように、管理を行うための団体として管理組合を構成し、 この管理組合は構成員である区分所有者の合意によって安全・快適な居住と有効な資産価値の維持保全を目的とする管理業務を行いますが、 通常、その業務内容は管理規約や使用細則等に記載されています。 管理組合は共用部の維持保全や修理、改修に責任があります。

◆ 維持保全の対象は共用部分

維持保全の対象は共用部分であり、共用部分の対象となる部分については、管理規約や使用細則等に記載されています。

◆ マンション修繕工事の特殊性

マンション修繕工事は、建物ごとに劣化の量と進行度合が異なり、正確な工事費用の算出には事前の調査診断が欠かせません。 また、住民が日常の暮らしを営む中での実施が前提であり、仮設足場の防犯対策や工事騒音の低減、シンナー溶剤類などの化学物質への対策が要求される等の特殊性があります。

5. 修繕工事項目の概要と修繕周期の目安

下記に目安となる修繕周期を挙げておきましたが、このまま設定されるわけではありません。
(1) 新築マンションの場合、推定修繕工事項目ごとに、マンションの仕様、立地条件等を考慮して設定します。
(2) 既存マンションの場合、更に建物及び設備の劣化状況等の調査・診断の結果等に基づいて設定します。
(3) 長期修繕計画では更に、経済性を考慮し、推定修繕工事の集約を検討します。

  [長期修繕計画]

修繕工事項目 対象部位 工事区分 修繕周期
建 物
屋上防水(保護)屋上、塔屋、ルーフバルコニー補修・修繕
撤去・新設
12年
24年
屋上防水(露出)屋上、塔屋
傾斜屋根防水屋上
庇(ひさし)防水庇天端、笠木天端、パラペット天端、架台天端修繕12年
バルコニー床防水バルコニー床の防水(側溝、幅木を含む)修繕12年
開放廊下防水開放廊下、階段の防水(側溝、幅木を含む)修繕12年
コンクリート補修外壁、屋根、床・手すり壁、軒天、庇等修繕12年
外壁塗装外壁、手すり壁等の塗装塗替
除去・塗装
12年
36年
軒天塗装開放廊下、階段、バルコニーの軒天
タイル張外壁、手すり壁補修12年
シーリング外壁目地、バルコニー壁、スリーブ廻り打替12年
鉄部塗装(雨掛かりの部分)
開放廊下・階段、バルコニーの手すり、屋上・外構フエンス、設備架台、屋外鉄骨階段
塗替4年
鉄部塗装(雨掛かりでない部分)
住戸玄関ドア、共用部分ドア、PS・メーターボックス扉、手すり、設備機器(消防・配電盤類)
塗替6年
非鉄部塗装(アルミ製・ステンレス製)サッシ・面格子・ハッチ清掃12年
(ボード・樹脂・木製)隔て板、雨樋、木部全般塗替12年
建具関係住戸玄関ドア、共用部分ドア、自動ドア点検・調整
取替
12年
36年
窓サッシ、面格子、網戸、シャッター
手すり開放廊下・階段、バルコニーの手すり取替36年
付属金物縦樋支持金物、笠木、集合郵便受け、ロッカー取替24年
共用部の内部管理員室、集会室、内部廊下、内階段壁張替・塗替12年
設 備
給水管屋内共用給水管更正15年
屋内共用給水管、屋外共用給水管更新30年
受水槽受水槽、貯水槽、高架水槽取替25年
給水ポンプ揚水ポンプ、加圧給水ポンプ、直結給水ポンプ補修8年
取替16年
排水管屋内共用雑排水管更正15年
屋内共用雑排水管、汚水管、雨水管更新30年
排水ポンプ排水ポンプ補修8年
取替16年
ガス管屋外埋設ガス管、屋内共用ガス管取替30年
空調・換気設備共用部管理室・集会室のエアコン取替15年
換気設備屋外埋設ガス管、屋内共用ガス管取替30年
電気設備同上の換気扇、ダクト類、換気基地、換気ガラリ取替15年
防災・消防設備感知器、発信器、表示灯、音響装置、受信機等取替20年
消火栓ポンプ、連結送水管設備、消火栓箱等取替25年

(注1)修繕周期は使用されている材質や施工方法、環境、管理状況などで大きく変わります。
例えば、給水管の材質は亜鉛めっき鋼管(これにもコア付きとコアなし、エポキシライニングなど多種あり)、硬質塩化ビニルライニング鋼管、ステンレス管、 ポリエチレン樹脂管など、材料と工法の進歩に伴い多種多様にあり、脱酸素・磁気処理・高圧洗浄など使用に伴う保全と管理の技術も、多種多様にあります。 他の部位についても同様で、修繕周期をひとくくりで定義することは実際には無理があります。 (!)
ここで示した修繕周期は、あくまでおおまかな参考として見てください。

6. マンション寿命、いつまで?   (※注2)

鉄筋コンクリート造の共同住宅は、経年により外壁にひび割れなどが生じ、 その影響が鉄筋コンクリート躯体内部に至り、構造耐力が低下する。
マンションの寿命(耐用年数)は、経年劣化をどのように適切に補修してきたかにもよる。

コンクリート系マンションの寿命(耐用年数)としては、

@税法上の考え方(財務省令による減価償却年数47年)、
A日本建築学会・建築工事標準仕様書JASS5「鉄筋コンクリート工事」による計画供用期間の級で、2009年のJASS5改定時の耐久設計基準強度 
 標準 (計画供用期間65年)  24N/mu
 長期 (計画供用期間100年)  30N/mu
 超長期 (計画供用期間200年) 36N/mu
B中性化、塩害などによる外的要因、
C修繕による延命、その他、
D社会的・機能的劣化による陳腐化要因
などで判定します。

建築時期等による共同住宅の躯体の課題と対応

躯体の課題 S55年以前(〜1980年) S56〜H2年(1981〜1990年) H3〜H12年(1991〜2000年 H13年以降(2001年〜)
コンクリートの品質 JASS5準拠 JASS5準拠 JASS5準拠 JASS5準拠
耐震性(耐震基準) 旧耐震基準 新耐震基準 新耐震基準 新耐震基準
コンクリート設計基準強度 13 5N/mu〜24N/mu 21N/mu〜36N/mu 21N/mu〜36N/mu 21N/mu〜36N/mu
コンクリートをめぐる課題 ・経年による中性化進行の可能性
・低強度コンクリートの存在
・経年による中性化進行の可能性
・アルカリ骨材反応、未洗浄の海砂による塩害等による早期劣化
・経年による中性化進行の可能性
改修における対応方法 ・コンクリート強度の確認
・中性化・鉄筋腐食の調査・診断
・ひび割れ補修、断面修復、再アルカリ化等の工法を組み合わせて適用
・ひび割れ等を目視調査で確認し、必要に応じ詳細調査・診断

・適切な補修工法の選択と適用
・日常点検・定期点検による劣化状況の確認と予防保全

・大規模修繕計画にもとづく適切な修繕・改修の実施
備 考   ・1980〜84年,総プロ「建築物の耐久性向上技術の開発」

・1985〜87年,総プロ「コンクリート耐久性向上技術の開発」
・1997年のJASS5改定で、耐久設計基準強度を導入
・2009年のJASS5改定時の耐久設計基準強度
標準(計画供用期間65年) 24N/mu
長期(計画供用期間100年) 30N/mu
超長期(計画供用期間200年) 36N/mu
・持続可能な社会の構築に向けて、長寿命化・延命化の技術開発が進む

 

 

 

 

7. 築後80年超の共同住宅を改修・再生した事例

 

(※注2)
6〜7項の図表は平成24年2月6日(第1回)〜8月23日(第5回)に開催された国交省の勉強会資料が元になっています。 同勉強会では、「問題の重要さ・深刻さに気付いてもらうことが重要」「本勉強会での調査を踏まえ、各場面で役立つようなきめ細かな情報提供に努めるべき」との 観点から資料が公表されていますが、そのうちのごく一部を紹介しています。

出典:「国土交通省・持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会」別紙2
「共同住宅ストック再生のための技術の概要(耐久性・耐用性)」を元に作成