17.高齢者対応改修
1. 高齢者対応改修の概要
共同住宅の仕様設備は、竣工時期を追うごとに高齢者等が利用しやすいものへと変更されてきましたが、 既存の共同住宅では、各部位で高齢者等の利用に配慮されていないものが見られます。
(参考)公営住宅建設基準の改正(H3年度)
○住戸内の床の段差の解消
○浴室・便所への手すりの設置(下地の補強)
○共用階段及び住戸内階段への手すりの設置
○公営賃貸住宅では、平成3年度から床の段差の解消等が標準化されました。
屋外通行部分のスロープ化の例
「大規模修繕事例写真」 事例写真 8 変電室・駐輪場他
共同住宅のエレベーターの設置状況
中層階段室型共同住宅への
エレベーター後付け設置
高齢者が居住する住宅の設計に関する指針(平成13年告示1301)
基本レベル:高齢者の移動などに伴う転倒等を防止し、介助用車いす使用者の
生活行為を容易にするための基本的な措置
推奨レベル:上記のために特に配慮した措置
共用部と専有部それぞれの改修について、「基本レベル」と「推奨レベル」にわけて示します。
部 位 | 基本レベル | 推奨レベル | |
---|---|---|---|
共用階段 | 勾配等 | (蹴上げ×2+踏面)が550〜650mm 踏面240mm以上 |
(同左)+勾配7/11以下 |
蹴込み | 30mm以下 | 20mm以下 | |
手摺 | 少なくとも片側 | 両側 | |
踊り場 | ー | 段を設けない | |
共用廊下 | 段差 | 段差のない構造(5mmまで許容) | (同左) |
スロープ | 勾配1/12以下等 | (同左)+段の併設等 | |
幅員 | ー | 1,400mm以上 | |
エレベーター | 停止階 | 少なくとも1階おき | 全階 |
開口部幅員 | 800mm以上 | (同左) | |
かごの奥行 | ー | 1,350mm以上 | |
外部開放階段・廊下の転落防止手すり | 高さ1,100mm以上 手すり子の内法110mm以下 |
(同左) |
部 位 | 基本レベル | 推奨レベル | |
---|---|---|---|
段差 | 段差のない構造(次の段差等は許容) ・玄関上がり框 ・浴室出入口(120mm以下+手すり) |
(同左) ・玄関上がり框(110mm以下) ・浴室出入口(段差のない構造) | |
手すり | 便所、浴槽出入り用、玄関、階段等 | (同左)+浴室出入り用等 | |
幅員 | 通路 | 原則780mm以上 | 原則850mm以上 |
居室の出入口 | 750mm以上 | 800mm以上 | |
広さ | 便所 | 長辺1,300mm以上等 | 短辺1,300mm以上等 |
浴室 | 短辺1,200mm以上、面積1.8u以上 | 短辺1,400mm以上、面積2.5u以上 |
(注)専有部における段差と手すりの規定は車いす使用者以外も対象として想定しています。
幅員と広さの規定は車いす使用者を対象として想定しています。
2. 改修の具体例
どのような改修の方法があるかを、「高齢者対応」と「居住性の向上」の目的別に示します。
目 的 | 手 段 | 技 術 |
---|---|---|
共用部のバリアフリー化 | エレベーターの設置 | 踊場着床型エレベーターの設置 |
フロア着床型エレベーターの設置(バルコニー側) | ||
フロア着床型エレベーターの設置(階段室側) | ||
スロープ設置 | アプローチにおけるスロープの設置 | |
専有部のバリアフリー化 | 段差の解消 | 玄関の改修 |
水廻り設備改修 | 洗面台の改修 | |
キッチンの改修 | ||
トイレの改修 | ||
浴室の改修 | ||
手すり設置 | 廊下・階段・トイレ・浴室・玄関等の手すりの設置 |
目 的 | 手 段 | 技 術 |
---|---|---|
共用部の居住性向上 | 共用設備の改修 | インターホン改修 |
エントランスの改修 | ||
オートロック改修 | ||
防犯対策改修 | ||
専有部の居住性向上 | スイッチ・建具のとって等の交換 | スイッチの取替え |
建具のとって・引き手・錠の取替え | ||
水栓金具の取替え |
3. 共同住宅へのエレベーター後付け設置の方法
(1)踊り場着床型
既存階段室の踊り場にエレベーターを設置する方法です。
@ ローコスト及び居付き施工が可能(特徴)
A 半階段分の昇降が残る(課題)
(2)フロア着床型(バルコニー側)
既存のバルコニー側にエレベーターを設置する方法です。
@ 階段昇降の解消(バリアフリー化)(特徴)
A ローコスト及び居付き施工が可能(特徴)
B 居住者の日照・プライバシー(課題)
C 居住者の承諾が難しい(課題)
(3)フロア着床型(バルコニー側)
階段室を改造しエレベーターを設置する方法です。
@ 階段昇降の解消(バリアフリー化)(特徴)
A 既存玄関からの出入可能(特徴)
B 仮設階段等による高コスト(課題)
C 施工中の迷惑・工事騒音(課題)
D 居付き施工の場合、日常生活の確保が課題
工事費の比較
UR団地におけるエレベーターの設置実績(35団地437基)の工事費の例を示します。
踊場着床型のエレベーターが比較的廉価で実績も多い。
エレベーターの種類 | 1基あたりの工事費(百万円) | ||
---|---|---|---|
階段室型住棟 | 踊場着床型 | 15〜18 | |
フロア着床型 | バルコニー側 | 24〜27 | |
階段室側 | 53 | ||
片廊下型住棟(フロア着床) | 20〜26 |
※ (工事費用には設置後の保守・点検費用は含まない)
エレベーター設置工事は、エレベーターの機器の設置だけでなく、 住棟を改修する工事、住棟周辺に埋設されている水道・ガス管等の管類の切り回し工事等から構成され、 各工事の合計で費用が形成されます。
※ この工事費は平成24年2月6日(第1回)〜8月23日(第5回)で公表された国交省の勉強会資料に基づいています。 その後、資材や工賃等の費用も変動していますのでご留意ください。
4. 団地における高齢者対応改修
@安心住空間創出プロジェクトの推進
高齢者等ができる限り住み慣れた地域や家庭で自立し、安心して暮らし続けることができるよう、 公営住宅・UR賃貸住宅団地を地域の福祉拠点として再整備している事例です。
A団地内施設を活用したサービス施設導入
団地内に設置された店舗等の施設は、団地居住者の変化等に伴い、利用者が減少し、 なかには遊休化するものも発生しています。
一方、居住者の急速な高齢化に伴い高齢者向けのサービスを提供する施設は不足しています。 このため、既存施設の用途を転用し、高齢者の生活を支援する施設を積極的に導入している例があります。
出典:
国土交通省・持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会資料
別紙6「共同住宅ストック再生のための技術の概要(高齢者対応)」