8. 工事中に予想される生活支障
大規模修繕は住民が日常の暮らしを営む中で実施されますから、生活する上でさまざまな支障がでてきます。
それが工事期間中、長いときは3〜4ケ月も続きます。
そのような生活支障に対する対策の多くは工事の作業性、施工性(=修繕コスト)とのトレードオフの関係にあります。
どの程度なら住民が納得できて修繕コストも必要最小限に抑えられるのか、その兼ね合いについて改修設計者と管理組合は最後までぎりぎりの判断が求められます。
決定した後も、住民にとって不都合なことこそ、工事に入る前の段階でオープンにして広報やアンケートで十分な説明をし、同意を得ておいたほうが、住民も業者も双方安心して工事に入れます。
管理組合のガバナンス(統治能力)の源は「信頼」です。
1. 工事中に予想される主な問題点
(注)工事写真をご参考に。 . 工事写真 7 施工例
1. 仮設足場をかけ、防護ネットで覆いをかけたとき
日照と通風がさえぎられ、日中でも室内は暗くなり、窓の開閉が制限され、自然換気ができなくなります。
足場を伝って夜間、不審者が侵入するおそれがあります。(防犯対策足場の採用も可能)
バルコニーに洗濯物が干せなくなります。
2. 塗装や防水工程にはいったとき
臭気が発生するほか、塗料やシンナー等の溶剤に対する化学物質過敏症の人のいる家庭では
深刻な問題を引き起こすので、十分な調査と対策を講じる必要があります。ごみ、ほこりも同様です。
3. コンクリートや鉄部のはつりなどの作業
振動と騒音は、物理的な問題だけではなく、被害者意識を生む心理的な要素が大きいのです。
コミュニケーションはその被害者意識をやわらげてくれます。
地域近隣住戸に対しても,ていねいな事前の広報はとても大切です。
4. 自己責任で処理してもらう作業・個人負担となる作業
バルコニーの塗装や防水工程に入ったとき、バルコニーのプランター類やBSアンテナ等の室内への移動は 自己責任で処理してもらうこと、エアコンの室外機や物置などの移動・撤去・再取り付けの費用は公平性の観点から、 有償で個人負担してもらうことを徹底します。
5. 工事設備スペースの確保の問題
仮設足場、工事車両、プレハブの仮設現場事務所、仮設トイレ、資材置き場、建設廃材置き場、
重機作業のスペースなどの問題をクリアしなくては工事に入れません。
敷地内の駐車場や駐輪場が使用できなくなる場合がありますので、
代替駐車場・駐輪場などのスペースを確保するのが大変な場合もあります。
仮設トイレも、最近は洗浄トイレが普通になってきました。
仮設洗濯機を複数台置く場合もあります。
6. 停電・断水が必要となる工程
一時的に停電・断水となる場合、室内で使用中の電気機器、FAX、OA機器などへの注意のほか、
エレベータの停止も必要です。
乳幼児や介護を必要とするお年寄りの家庭には、特に配慮する必要があります。
7. 共用部の使用制限
共用部の中で、集会室や来客駐車場などを工事目的に使用する場合があります。
8. 個人の占有部室内への立ち入りと給排水の使用禁止
一時的に入室する必要が出た場合、丁寧に入室許可を求めます。
枝管・横引き管を含む既設給排水管の撤去と更新では、縦の系統ごとに給排水やトイレ、
浴室の使用禁止期間が1週間も続くことがあり、状況によっては仮住居への引越しの
必要性が出る場合もあります。
生活上の個人的な問題に立ち入っての個別対応になる典型例です。
理事と業者で構成する個別対応チームを編成し、守秘義務とプライバシーを尊重し、
公平性と透明性を基本として、どのように解決するかを話し合います。