修繕積立金値上げの事例
将来の大規模修繕工事・・・
不安に思いながらも備えがおろそかになっていませんか?
国土交通省は2011年4月、分譲マンションの「修繕積立金」の目安を発表しました。
その背景には、販売時の修繕積立金の月額が将来の工事費に備えて算出されておらず 低額であるために多くのマンションが資金不足に陥っている深刻な状況があります。 そのため、第1回目の大規模修繕の工事費は賄えても、2回目、3回目の修繕では、 多くのマンションが資金不足に陥っています。 長期修繕計画を作成して、ぜひとも修繕積立金の金額を再設定してください。
1. 修繕積立金の目安
発表された積立金の目安は、「専有面積1uあたり月額200円前後」でした(下表参照)。
これは実態の約2倍にあたるとしています。
例えば表の202円の場合ですと、70uの住戸で月額1万4,140円です。
あなたのマンションの積立金はu単価いくらですか? 分譲時のままではありませんか?
・新築マンションの購入者が30 年間に必要とする修繕工事費の総額を、
当初から均等に積み立てた場合の月額の目安。
・新築時に一括徴収する修繕積立基金の前提はなし。
・機械式駐車場がある場合は、この金額に駐車場の修繕工事費分( 月額)を加算する。
※事例:「長期修繕計画作成ガイドライン(国交省)」に沿って作成された長期修繕計画を指している(84事例)。
2. 既存のマンションは要注意
この目安を見る上での注意点が3つあります。
1つ目は、これは新築当初から均等に集めていく場合の金額だという点です。 すでに築後10年、20年を過ぎている場合は、そのままでは目安にはなりません。 今まで低額だった分を上乗せすることが必要になります。
2つ目は、機械式駐車場の修繕費用は入っていませんので、機械式の駐車場を持っている管理組合は、 別途加算が必要だという点です。
3つ目は、新築から30年間としており、2回目の大規模修繕までしか見込まれていない金額だという点です。 一般的に大規模修繕は12年毎に計画されているので、3 回目の大規模修繕は築後36年前後になります。 資料〈本頁下段の 「長期修繕計画」を参照〉 にあるように3回目の修繕は工事項目が多いため、費用も1回目の比ではありません。
「200円前後」という目安は、既存のマンションがそのまま受け取って安心できる金額ではないので注意してください。 ではいくらに設定すればいいのでしょうか? 答えはあなたのマンションの長期修繕計画の中にあります。
分譲時の積立金が非常に低かったNマンションが、長期修繕計画を作成し、値上げを実現させた道のりをご紹介します (担当: 山野井 武 一級建築士)
3 修繕積立金値上げの事例
積立金26円/uから大幅な値上げを実施した中野区 Nマンションの事例
(築17年・9階建・34戸)理事4名(2年の半数交代制)・全面委託管理
@1994年(竣工時)〜
u単価26円 (70uの場合1,820円)
・非常に低額に設定されていた。
・34台分の駐車場収入(年間 約1,000万円)があり、680万円ほどを管理費に、
残りを修繕積立金に繰り入れていたため、問題に気づきにくかった。
A2009年
5倍の130円に値上げ (70uの場合9,100円)
・2009年度の理事会が、積立金の額の低さに気づき、精力的な広報活動で住民に
状況を説明。これまでの収支の状況、駐車場収入が年々減っていること、
このままでは、工事資金の不足に陥ること等、理事会、修繕委員会の考えを
わかりやすく知らせていった。
・情報が次から次へと配布され、住民は、何か大変なことが起こっていると感じた
のではないか。関心を持つ人が増えたと考えられる。
・理事会は、管理会社に依頼して作成した長期修繕計画を見て、本当は10倍
(260円/u)にしたかったが、まずは、5倍にする案で総会に提案し、承認を得る。
・その際に、大規模修繕を終えた時に長期修繕計画を新規作成し、再度、
値上げの検討をすることも決めた。
B2011年
2〜9月 第一回大規模修繕
・マンションNPOと設計コンサルティング契約を結び、設計監理方式(診断、
改修設計、工事監理を第三者の建築士に依頼し、施工は施工会社に依頼
する方法)で大規模修繕を実施。
・工事費は、約6,000万円。吹き抜けが2カ所ある形状のため、外壁面積が多く、
一般的な工事よりも割高に。
・工事後の積立金残高は約1,300万円。
・納得のいく修繕となった。
C2011年
10月〜長期修繕計画の作成と積立金の額の検討
・大規模修繕終了後、引き続き長期修繕計画(25年間)の作成を担当の
建築士に依頼。〈長期修繕計画より〉
@今後の大きな工事の予定と金額
2017年 設備改修(給水管更正、消防設備等) 約3,900万円
2023年 第2回大規模修繕 約1億800万円
2029年 設備改修(給水管更新等) 約3,600万円
2035年 第3回大規模修繕 約1億4,300万円
A現行のままの場合(130円)
2017年の設備改修予定時にまず不足し、その後大幅に不足。
不足額は、合計1億1,000万円以上。
一時金で補うとすると一戸平均688万円。
・@Aをもとに、建築士は、3つの値上げ案を理事会に提案した。
・数年かけて少しずつ段階的にあげていく案もあったが、修繕委員会は、
大規模修繕が終わって、住民の意識が高くなっている今がチャンスで
あるということ、段階的な値上げだと、据え置いた分、最終金額が高く
なるからと、一気に必要な金額に上げるA案を選択した。
・建築士も驚いた思い切った選択だった。
B理事会が選んだA案
・u単価を現行の130円→320円に。その後の値上げはなし。
機械式駐車場は更新(3,000万円)を予定。
資金の不足分はあるが、第2回目に1,200万円程度、3回目に5,500万円程度の
借り入れで対応。
D2012年
2.4倍の320円に値上げ(70uの場合22,400円)
・住民に対する工事説明会を実施。
説明会では、会計担当理事が、いかに値上げが必要かを訴える資料を作成、
マンションNPOの山野井建築士も出席し、長期修繕計画の内容について説明。
よい意見交換の場となった。
・その後、臨時総会で値上げを可決。
・5年後に長期修繕計画を見直しをする予定。
4 長期修繕計画はマンションのヘッドライト
Nマンションは、大幅な値上げを実現させました。 その陰には「心血を注いだ広報活動」と「長期修繕計画による値上げの必要性への理解」がありました。
「計画の中に提案してもらった工事はすべて実施していくつもりです」 と理事長さんはきっぱりおっしゃっていました。 長期修繕計画とそれを作成した建築士への強い信頼を感じました。 長期修繕計画は、今後、Nマンションの維持管理を導くヘッドライトになるでしょう。
もちろん、そう簡単に値上げができないことも事実です。 しかし、段階的な値上げや借り入れの利用、管理にかかる費用の節減等で乗り切る方法もあります。 それらを検討するためには、長期修繕計画で、 この先何年後にどのくらいの費用のかかるどんな工事が控えているのかを知ることが第一歩です。
将来を見据えた資金の準備を始めていきませんか。
「マンションNPO通信 第57号(2012/8/15発行)P2〜3所載」