修繕積立金と長期修繕計画に関する6つの注意点
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マンションNPOでは多くのマンションの長期修繕計画を作成してきましたが、 分譲当初の積立金の設定金額が低いため、現状の2倍、3倍の増額が必要なケースがほとんどです。 |

当初の修繕積立金が低すぎる
分譲当初の修繕積立金の月額は、売りやすくするためにかなり低く設定されており、多くが6,000〜8,000円(1戸当り)程度です。 これは、u単価(月額を専有部分のu数で割った金額)にすると100 円ほどです。
この低すぎる設定が、将来の工事資金不足につながっていると国会で問題視され、
国土交通省は2011年に「修繕積立金に関するガイドライン」を発表しました。
このガイドラインにより、新築時から少なくともu単価200円程度は必要だという目安が示されました。
専有部分が65uだとすると13,000円以上ということです。
しかし、この金額には注意が必要です。
30年目までに予定する工事費の合計から算出しているため、
3回目の大規模修繕の費用が入っていないからです。
多大な費用がかかる「各戸のサッシや玄関扉の交換」「専有部分の給排水管の更新」が入っていませんし、
「機械式駐車場の改修費用」も別途となっています。
ですから、既存のマンションにとっては、3回目の修繕をしっかりと実施するには、
ガイドラインが提唱するu単価200円でも全く足りないのです。

12年サイクルで見る工事項目と費用
上記のグラフは、築13年、37戸のMマンションの長期修繕計画を簡略化したものです。
昨年実施した1回目の大規模修繕は、外壁補修、防水工事、鉄部塗装を中心とした現状回復の工事です。
これを約4,900万円(設計監理方式、マンションNPO)で実施しました。
今後、築24年目に、の項目の他に金物類の交換、消火栓ポンプや連結送水管、
照明器具更新等の改修を予定。
そのため7,600万円となっています。築30年目には専有部分も含めた給排水管の更新などで
約9,200万円。築36年目では、
の他に、各戸サッシ・玄関扉の交換、エントランスの改修などが予定され、
その費用は1億5,000万円と算出されています。
現状の積立金のままで推移した場合、修繕積立金の累計は2億9,000万円。 修繕工事費の累計は4億1,300万円。1億円以上の資金不足に陥ることがわかります。 そのため、現在Mマンションは、各戸平均4,000円を3年ごとに4回増額し、 築36年時に5,300万円の借り入れを行う(グラフ下の数字参照)等の案を検討しています。
そこまで修繕しなければならないのはなぜ?
コンクリートは100年持つと言われています。 マンションは、計画的に修繕を施せば少なくとも80年は住まいとして十分に機能すると言っていいでしょう。 しかし、そのためには、設備も含めたひと通りのリニューアルを築40年頃までに実施しなければなりません(グラフ参照)。
また、80年以上持つのですからマンションの所有者も替わるでしょう。
その時に、老朽化や漏水の多発で借り手も買い手もつかないようなマンションでいいのでしょうか?
お子さん世帯が住み続けるにしても、売るにしても資産性を維持しておくことが求められているはずです。

長期修繕計画とは
長期修繕計画では、まず、大規模修繕の実施時期と工事の内容、費用を予測し、 必要な修繕積立金の額を算出します。 その上で「増額する金額、回数」「借入の時期と金額」などをどう組み合わせれば、 管理組合にとって実現可能かを検討していきます。
つまり、長期修繕計画は、必要な修繕を実行するための資金計画を立てるものなのです。
ギブアップしてほしくない
長期修繕計画は誰が作っても同じになるものではありません。 金額をアップしたくないという管理組合の思いに寄り添ってしまえば、 必要な工事項目を網羅しなかったり、補修で対応する計画になったりします。 マンションNPO の建築士が作成する長期修繕計画は、 必要な工事をやり切るための思いが込められた提案になっています。
例えば、3回目の大規模修繕にはサッシや玄関扉の交換といった項目が入り工事費用のピークを迎えますから、 この山を乗り切るために借入れを利用して、負担をできるだけ軽くするべきと考えています。 多額の費用がかかる3回目の大規模修繕を終えれば、4回目は、また2回目の大規模修繕の内容程度に戻ると考えられますから、 数年間の借入金の返済があっても、乗り越えられるからです。
また、通常、一気に値上げするのは難しいので、段階的な値上げ案をシミュレーションしながら、 合意の得やすい案を管理組合とともに模索していきます。 住民説明会では、納得を得られるよう専門家として説明に力をつくします。 管理組合に、工事をやりきることをギブアップしてほしくないからです。
長期修繕計画によって、マンションの資産性や耐久性が左右されるといっても言い過ぎではありません。 あなたのマンションでも、しっかりとした長期修繕計画を用意し、そして活用してください。

@ 1回目の大規模修繕の不足分は修繕積立基金がカバーしている
昨今、分譲時に30〜40万円前後の修繕積立基金を集めることがほとんどです。 ですから、たとえ月々の積立金の額が低くても、1回目の大規模修繕の費用は賄えてしまいます。 そのため、修繕積立金が不足することに気がつかず、増額のタイミングをさらに遅らせてしまうことになっています。
A 長期修繕計画の通りに実施するものではない
例えば「2年後に大規模修繕」と予定されていても、その通りにやらなければならないわけではありません。 予定の時期がきたら、建物診断を実施して、工事時期、工事内容を判断することが重要です(屋上防水などは、同時に実施した方が効率的ですが、 仕上げの工法や劣化状況により修繕時期を伸ばすことも可能です)。
B 工事の費用はそのままあてはめられない
長期修繕計画の修繕単価は、1年以内の大規模修繕における数十件の施工会社の見積書の平均値を参考にしています。 また、物価の上昇、人件費や材料費の高騰、消費税のアップなども多少は加味しています。 ですから実際に工事をする場合は、数社からの競争見積りによるコストダウンを図ることが必要です。
C 5〜6年に一度と大規模修繕の後には必ず見直しを
長期修繕計画は、そのままで長く使えるものではありません。 消費税アップや社会情勢による金額の変化もありますから、5〜6年に一度は見直してください。
また、大規模修繕後には、実際にかかった費用や見送った工事内容などを反映させます。 それによって、現状の積立金で足りるのか、再度チェックするのです。 定期的な見直しによって常に参考になる長期修繕計画を持つことが大切です。
D 安易な出費はさける
貴重な修繕積立金ですから、安易な出費はさけなければなりません。 修繕は、できるだけ集約して行うようにしてください。 そのためには、長期修繕計画でも集約して工事を行うよう計画されていることが大切です。
また、設計監理方式による競争見積を実施し、工事の質を確保しながら、 価格の低減をはかることも重要です。
E 増額を先送りしない
長期修繕計画によって資金計画を見直した場合は、実行に移さなければ意味がありません。 増額の必要性を理解した理事会が責任を持って、総会に提案していきましょう。 早い決断が、マンションの将来を守ります。
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