滞納対策の実務 目次 > 【前頁】 2. 管理組合の滞納督促 > 3. 滞納の原因と対策 > 【次頁】 4. 訴訟の種類と方法

1 滞納の原因と対策

滞納の原因は、様々です。その理由を見極め、対応する必要があります。

支払意志と支払能力からの分類

1)支払意志はあるが、不注意で(うっかりして)支払わなかった人=注意を促す程度で可。
2)支払意志はあるが、支払能力のない人=相談に乗り、一緒に対応を考えます。
3)支払能力はあるが、支払意志のない人=説得の後、機を見て法的対応に移行します。
4)支払意志も支払能力もない人=機械的に督促を続け、機を見て法的対応に移行します。

原因と対策(要約)

1)預金口座振替契約手続きを忘れた、口座残高がなかったなど、一時的な滞納=注意の喚起
2)区分所有者が死亡後、財産分与を巡って相続人が未定のため払込人も未定
=親族と話し合い、決まるまでの間、仮の払込人を決めてもらうなどの話し合いをします。
3)失業、病気などによる経済的困窮=難しいことですが、事情を聞いて、一緒に考えたり、自治体の相談窓口や民生委員、生活相談員と共に相談に乗っているところもあります。機械的な督促で精神的に追い込まない配慮も必要です。
4)破産、倒産=本文の「競売に関わる注意事項」を参照してください。準備が必要です。
5)所有者が行方不明=住宅ローン等の抵当権者の登記調査や親族などとの話し合い
6)管理組合への不満=原因となっている不満についての説得
7)管理会社への不満=管理委託契約についての説明・理事会からの説得
8)業者の買取・転売予定=宅建業法に基づく説明、機を見て法的対応に移行
9)分譲業者の未売却住戸=区分所有法・宅建業法の重要事項の説明、判例を基に説得
10)競落人(特定承継人)の支払拒否=区分所有法8条の説明、機を見て法的対応に移行
11)その他、意図的な支払拒否=督促手順に従って督促を続け、機を見て法的対応に移行

2 管理費等請求訴訟の特徴

(1)概説


分譲型マンションでは、「建物の区分所有等に関する法律」に基づいて区分所有者によって構成される管理組合が結成されている。管理組合は法人化されていなくても、規約、理事、財政等 の裏づけのある管理組合の場合、権利能力なき社団としての実質を有するから、この管理組合は議決により、マンションを維持するという全員の利益のために管理費や組合運営費、修繕積立金、建替準備金等さまざまな項目の費用を定めて, これを区分所有者各人から徴収している。

しかし、さまざまな事情により、こうした費用を納めない、或は納められない区分所有者が出てくるが、管理費等を滞納されるとマンションの維持・管理に支障をきたすので、管理費の滞納は区分所有法6条1項に規定する「共同利益背反行為」として、管理組合としては督促を続け、或は訴訟を起こして、これらの費用を回収しなければならない。
裁判による請求にあたっては、請求する費用の費目、請求部分の特定、(何月分から何月分までを請求するのか)、請求根拠、(議決に基づくものはその内容)等を明らかにしなければなりません。
この訴訟の特徴および留意点は次のとおりです。

(2)訴訟提起の要件等

(A)集会の決議

区分所有者が管理費等を払わない行為は、建物の保存に有害な行為であり、管理に関して区分所有者の共同の利益に反する行為である(区分所有法6条1項)から、この行為を除去するために管理組合法人が当該区分所有者に対し訴えを提起するには、集会の決議によらなければならない。(区分所有法57条1項・2項)
また、管理者や集会において指定された区分所有者は、他の区分所有者全員のために当該区分所有者に対して訴えを提起することができる。
したがって、訴えを提起する場合は議決事項を記載した議事録の写しを添付しなければならない。

(B)被告が手続違背を争う場合

通常の場合は、単に被告の手元不如意(てもとふにょい、お金がないこと)によって管理費等が払われていないケースが多い。
区分所有者の中でマンションの管理・運営をめぐって対立があり、被告が、管理費等が定められた経緯について,或は支払いの条件をめぐって、弁明の機会が与えられなかったとする議決等の手続違背(意見を述べる機会の不付与)を争うような場合があるが、このようなケースは、かなり複雑困難な訴訟となる。

(C)分割払いの和解をする場合

請求は訴え提起までの滞納分であり、それ以降も滞納が続いていることが多い。その場合には、請求を拡張し、正常な支払いに復帰するまでの金額を未払金額として和解の対象とし、分割払いをすることにより、一度に解決を図ることができる。

(3)管理費は所有者の義務であり管理組合に対する債務である。

 集会決議で金額が定められている管理費は区分所有法上の用語ではなく、管理実務上、「管理費」、「共益費」、「組合費」、「修繕積立金」等の名称で呼ばれますが、いずれも「共用部分の管理に関する事項」(区分所有法18条1項)及び、「共有敷地、付属施設の管理に関する事項」(区分所有法21条による18条の準用)として、 集会決議によるものに対する法の保護が与えられており、駐車場、倉庫等の専用使用料についても法7条1項・8条の特別の保護が与えられています。

(但し、水道、電気使用料等については、立替金求償権であり、共用部分の管理に関する費用とはみなされていません。(東京地判平成5.11.29)つまり、集会決議によってその金額を決めることはできないとしています。)

いずれにせよ、管理費の負担は所有者の責務であり、「管理組合の組合員たる資格は区分所有権の一つであるから、管理規約や個々の管理委託契約それ自体が管理費支払い義務発生要因と考える必要はない」(大阪地裁判昭57.10.22)」との判決があります。

このことは、例えば、売れ残りマンションについて、原始規約、分譲契約書、或は承諾書といった契約書において「管理組合の年度末決算の結果、不足額が生じる場合についてのみ分譲業者は売れ残りマンションの管理費負担義務を負う」あるいは、 「修繕積立金は負担しない」といった特約を設けても、管理費は所有者としての義務であり、売れ残り部分も、分譲業者が所有しているものである以上、管理費の支払い義務を免れ得ないのは当然で、 分譲業者の過去9年にわたる管理費滞納につき、遅延損害金も含め、約670万円の支払いを命じた判決(福岡地裁小倉支部判平成3.1.30)があります。

3 管理規約上の滞納対策

1)遅延損害金の規定

「管理費等の徴収」規定の中で、「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、理事会の決議により、その未払金額について年利○○%の遅延損害金を加算して、その組合員に対して請求することができる。」旨規定することは滞納予防効果があります。

Q.滞納には遅延損害金を付けて請求できますか?

A.できます。遅延損害金とは、金銭貸借の履行が遅れた場合に支払われる損害賠償金のことで利息とは違います。 管理規約、または総会決議に遅延損害金の利率の定めがあれば、規約及び決議に従い(民法419条)、
定めがなければ、法定利率として年5%が適用されます。(民法404条)

(2)弁護士費用等の負担の規定

弁護士費用は交通事故の不法行為以外では一般に認められていませんでしたが、(東京地裁平成4・3・16)判決のように「管理組合に訴訟提起を余儀なくさせたことが滞納者の不法行為を構成する」として、弁護士費用の支払を認めることが実務上多くなっています。但し、規約に定めがなければ滞納者に負担させることが出来ません。

(3)合意管轄裁判所の規定

相手の所在地の管轄裁判所で裁判を行うことは、大変な負担を強いられます。「この規約に関する管理組合と組合員間の訴訟については、対象物件所在地を管轄する○○地方(簡易)裁判所をもって、第一審管轄裁判所とする。」と規定しておくことは、回収の効率化を図る上で大切なことです。

(4) 管理費滞納を理由とする水道、電気等の供給停止及び専有部分の使用差し止めは管理組合側の権利濫用として不法行為にあたるとした判決もあり、債務者の生活用住居の場合は難しい点がありますので、実行する前に充分検討してください。

Q.債権を放棄するには?

A.どうしても滞納金を回収できないとき、和解、判決等の法的強制力のある裁判上の決定によらない場合、

債権を放棄する手続きが必要になります。
詳しくは、第9章「滞納債権の圧縮と放棄の手続」を参照下さい。

1)法人でない管理組合の場合
○民法の任意組合の形態をとる管理組合の場合は、滞納管理費等の債権は区分所有者全員の債権として構成されるため、債権放棄には区分所有者全員の合意が必要となります。総会での多数決では決められません。
○人格なき社団の形態をとる管理組合の場合は、法的に債務が消滅している場合は債権放棄することができますが、それ以外の場合は会計原則に則った説明開示の手続が必要になります。

2)管理組合法人の場合
区分所有法第52条により、集会の決議を経れば法人として債権放棄することができます。