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管理組合のための
個人情報保護ガイドライン (Privacy Guidelines for Strata)

4. 個人情報の開示要求

  第4章 個人情報の開示要求 目次
  1.個人情報の開示要求
    1. 個人情報保護法の規定による開示要求
    2. 共同住宅法の規定による開示要求
    3. 費用の請求
  2.個人情報の修正要求

  第5章 被雇用者の個人情報 目次
  1.被雇用者の個人情報
  2.被雇用者の個人情報の定義
  3.被雇用者の連絡情報と業務成果情報
  4.同意なしで開示される被雇用者の個人情報

4.1 個人情報の開示要求

管理組合は個人情報について2種類の異なるタイプの開示要求を受けることがあります。
一つは個人情報保護法の規定によるもの、他の一つは共同住宅法の規定によるものです。

4.1.1 個人情報保護法の規定による開示要求

個人情報保護法では区分所有者と居住者は本人の情報に関して、それがどのように使用され、 誰に対して開示されるのかを知るために、本人情報の開示を管理組合に要求することができます。

管理組合はその情報のコピーを提供するための最小限の費用を請求者に請求してよいことになっています。 但し、管理組合に雇用されている従業員からの請求に対しては費用の請求はできません。

ここで重要なことについてお知らせしておきます。
個人情報保護法では請求すれば誰でも無制限に個人情報を開示できるとは定めていません。 あくまで、請求者本人の情報に限り、本人にのみ開示することを認めています。 個人情報保護法は管理組合が保有する個人情報を一般の人に開示する権利は認めていません。

個人情報保護法は文書による開示請求に対して、業務日の30日以内に、 開示の可否の決定を本人に通知しなければならないと定めています。回答すべき事項は下記の通りです。

1.本人に開示請求が認められるか否かの決定事項

2.開示請求が認められない場合、その法的な拒絶理由

3.管理組合の回答者の氏名と連絡先

管理組合が開示請求を拒絶しなければならない幾つかのケースがあります。 例えば、個人情報保護法23条の除外規定にあるように、 個人情報の開示が他の人に有害なリスクを与える可能性がある場合、 又は、訴訟関連の調査に使用されて、個人情報の開示が本人に不利となる可能性がある場合、 誰か他の人が個人の秘密又は企業秘密を暴露しようとしている場合などのケースです。

管理組合は、それらの可能性がある場合、承諾せずに保留したうえで厳格に判断し、 情報の開示を承認するか拒絶するかを判断しなければなりません。

請求者が管理組合の決定に不服がある場合、 請求者は個人情報管理委員会に対して意義申立をすることができます。

区分所有者と居住者は誰でも管理組合の保有する情報の開示請求をすることができます。例えば、 共同住宅内の自室をたずねて来た訪問者が映っている監視カメラ画像の写しも管理組合に請求することができます。 管理組合は、それらの開示請求に際しては、個人情報保護法の規定に従って回答する義務があります。

4.1.2 共同住宅法の規定による開示要求

共同住宅法35条では管理組合の運営上必要な情報、即ち賃貸人を含む所有者の名簿、 居住者家族名簿(管理規約で規定されている場合)、 3年以上居住している賃借人の名簿などの作成保管が規定されており、 所有者はそれらの個人情報の写しを管理組合に要求できます。(共同住宅法36条)

管理組合は、その請求内容が法と管理規約に適合している場合は、 請求を受けた2週間以内に承諾の通知を回答した後、1週間以内に個人情報を開示しなければなりません。

民事訴訟事件に関連して、管理組合の利益と対立する関係にある区分所有者又は居住者からの開示請求に対しては、 共同住宅法第169.1(b)に従って、その情報を提供しないことを正当と認めています。(共同の利益優先の原理)

4.1.3 費用の請求

管理組合はその情報のコピーを提供するための最小限の費用を請求者に請求できますが、 管理組合に雇用されている従業員からの請求に対しては費用の請求はできません。

共同住宅法36条に基づく請求の場合、 標準管理規約第4.2ではその開示のコピー費用を1頁25セントと定めています。(≒ 30円/頁)

4.2  個人情報の修正要求

個人情報保護法では、管理組合が収集した個人情報が正確かつ完全なものであることを保証するよう、 努めなければならないと定めています。

本人に代わって管理組合がその個人への決定に関与するとき、 又は管理会社など他の機関にその情報を開示するとき、 その情報は正確かつ完全なものでなければなりません。

この規則は、管理組合が個人の決定に関与したり、 他の機関に情報を開示したりするときに、 誤った個人情報の使用を防止するものです。

管理組合が管理している自分の情報に誤りや漏れがあった場合、 その人は管理組合に対してその修正を申し出なければなりません。

管理組合は、本人からの申し出に対し総合的に判断して修正すべきと判断された場合には、 すみやかに修正しなければなりません。

管理組合は管理会社などの関係機関へ誤った情報を開示したときは、 すべての関係機関に対し正しい情報に入れ替えなければなりません。 また、関係機関から修正情報が寄せられたときも、 管理組合は自らの管理する情報を修正しなければなりません。

修正された情報には、 本人からの申し出により修正された旨の注記をいれておく必要があります。

5.1 被雇用者の個人情報

個人情報保護法では被雇用者の個人情報は一般の個人情報と明確に区別されています。

管理組合に雇用されている従業員のみならず、無報酬のボランティアも同じ扱いになります。
管理組合理事会のメンバーも個人情報保護法では広義の「従業員」の扱いになります。

管理組合は、それら従業員の携帯番号やメールアドレスなどを、 本人からの明示的な同意なしに他の区分所有者や居住者に開示してはいけません。

5.2 被雇用者の個人情報の定義

個人情報保護法における被雇用者の個人情報の定義

「個人と組織の間における雇用関係のもとで、業務の遂行、管理、 報酬の支払の目的のためだけに収集、使用、開示される個人情報」

5.3 被雇用者の連絡情報と業務成果情報

被雇用者の個人情報には連絡情報と業務成果情報は含まれません。 もし、被雇用者自身が自己の情報の開示を要求した場合、 管理組合は開示するその情報に業務成果情報を含んではなりません。
例えば、管理組合の管理人が行っている建物の保守業務の作業日報は 業務成果情報であり、それらを個人の経歴等の写しに加えるべきではありません。  訳注(※1)

このことは大変重要なことで、 管理人の業務日誌には区分所有者や居住者の氏名など他の個人情報も含まれることがあるからです。

5.4 同意なしで開示される被雇用者の個人情報

管理組合は被雇用者の個人情報を雇用関係資料として、 本人の同意なしで関係機関に開示することがあることを、 本人にあらかじめ告知しておかなければなりません。

個人情報保護法第18条の規定では、 被雇用者に前もって告知できない確かな事情があるときは同意なしで開示してよいとしています。 例えば、管理人が業務で巡回していて、開示の同意を得ようとして管理組合が探し回っている間に 物事が進行して開示の目的が失われるといった場合です。

訳注

(※1) 個人の経歴等の写し

日本企業が外国に進出して不評を買う最大の原因が、労働者に対して明確な評価基準を示さない日本企業の文化です。 欧米でもアジアでも労働者は企業に対して自己の正当な評価を求めます。 そのために、被雇用者が雇用者に対して自己の情報の開示を要求することがあります。

管理人に要求される職務技能は清掃(小規模の共同住宅以外は専門の清掃人を雇う場合が多い)、 警備と点検(防犯、防火、防災のための点検、及び建物・設備の維持保全のための点検)、 そして接遇(居住者や訪問者に対する対応)であり、その職務を通じて区分所有者や居住者の生命・財産を守るのが目的です。

顕著な功績のあった管理人の論功行賞などを管理人の経歴・業績として記載する場合、 そのことを証明するために業務成果情報(作業日報)の写しを添付してはいけません。

管理人は日常的に居住者の個人情報に接しています。 管理人の心構えとして最も重要なことは、個人のプライバシーには立ち入らないということですが、 業務報告としての作業日報には、個人情報の秘密の暴露に該当する事項を記載しなければならないこともあります。 管理人の作業日報の取り扱いは慎重でなくてはなりません。

(※) この項は読者から寄せられた質問への回答として追記しました。(2017.7.7)

(初版掲載)2017/2/28