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8.組合員名簿の閲覧請求(T)

東京地裁 平成29年10月26日判決 概要

マンション管理組合の理事A(原告)は、数千万円を超える工事が、一部役員の紹介した
取引業者との間で随意契約が締結されている等の管理組合運営に不審を抱き、
理事会の多数派と対立し、理事会で意見を述べる事を諦め、理事会に出席しなくなった。

理事A(原告)は、組合員による総会招集権を行使して、規約の改正を内容とする議案を
総会に提案するために、他の組合員の連絡先を把握することを目的として、マンション管
理組合(被告)に対して、組合員として組合員名簿の閲覧を求めた。

管理組合(被告)は、本件名簿に個人情報が記載されていることを理由に閲覧を拒否した。

理事A(原告)は、管理組合(被告)に対し、組合員名簿の閲覧を認めるよう裁判所に提訴し、
同時に名簿の閲覧請求権を被保全権利とする仮処分を裁判所に申請した。

裁判所は判決で、組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であり、その
目的に不当性又は濫用的な側面はない。被告は議案の総会への提案自体の阻止を目的
として閲覧請求を拒否したものであるとして、 原告の主張を認め、組合員名簿の閲覧請求を認容した。

8.1 東京地裁 平成29年10月26日判決

主文

1 被告は、原告に対し、被告の組合員名簿を閲覧させよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

      主文同旨

第2 事件の概要

 本件は、被告(マンション管理組合)の組合員である原告が、被告に対し、
 マンションの管理規約に基づき、被告の組合員名簿の閲覧を求めた事案である。

1 前提事実
   (当事者間に争いがないか証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

 (1)当事者
  被告は、別紙物件目録記載の区分所有建物(マンション名「□□」。以下「本件マンション」
  という。)の区分所有者全員により構成される建物の区分所有に関する法律第3条所定の
  団体(管理組合)であり、本件マンションの管理を行っている、(甲2)。

  原告は、本件マンションの1,2階部分の共有持分を有する区分所有者であり、被告の組
  合員であるとともに、被告の理事(後記(2)ア)も努めている。

 (2)本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)の内容(甲2)
  ア  被告の役員として、理事長1名、副理事長2名、会計担当理事2名、理事9名、監事
    2名を置く(本件規約37条)ほか、理事によって構成される理事会を設置する(本件
    規約53条)。理事会は、総組合員により組織される総会への提出議案等を決議事項とし
    ている(本件規約56条)。

  イ  総会は、理事長が招集することとされている(本件規約44条)が、組合員が組合員
    総数の5分の1以上等に当たる組合員の同意を得て、会議の目的を示して総会の招集を
    請求した場合には、理事長は、所定の期間内に臨時総会の招集の通知を発しなければな
    らない(本件規約46条)。

  ウ  理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその帳票類を作成して保管し、  
    組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これを閲覧さ
    せなければならない(本件規約66条)。

 (3)原告による被告の組合員名簿の閲覧請求
  ア  原告は、平成29年1月26日、被告に対し、組合員による総会招集権(前期(2)
    イ)を行使して「役員の誠実義務の内容を規則に定めること」を議案として総会を
    召集することについて他の組合員の同意を得るために、他の組合員の連絡先等を把握す
    る必要があるとの理由を付した上、本件規約66条(前記(2)ウ)に基づき、被告の組
    会員名簿(以下「本件名簿」という)の閲覧を請求する旨通知した(甲3(枝番を含む。
    以下特記しない限り同じ。)・以下「本件閲覧請求」という。)。

  イ  本件名簿には、被告組合員の部屋番号、氏名、自宅電話番号、携帯電話番号、勤務先
    電話番号、住所、送付先住所が記載されているほか、備考欄がある(弁論の趣旨)。

 (4)本件訴訟提起後の経緯
   原告は、平成29年2月23日に本件訴訟を提起し、同年4月18日、被告に対し、本件 
   名簿の閲覧請求権を被保全権利とする仮処分を申し立てた(東京地方裁判所平成29年
   (ヨ)第1176号)。原告と被告は、平成29年5月1日の同事件の審尋期日において、 
   @原告が、被告に対し、被告総会に提案する予定の議案を送付すること
   A被告が、原告に対し、本件名簿を閲覧させる日時及び場所を指定した通知をすること等
   を合意した(甲21)。

   原告は、上記合意に基づき、平成29年5月11日頃、被告に対し、原告が被告総会に提
   出する予定の議案(以下「本件議案」という。)を送付した。

   本件議案は、本件マンションの共用部分の修繕工事等の発注について、これまで本件規約
   に明確な規定がなく、数千万円を超える工事についても一部役員の紹介した取引業者との
   間で随意契約が締結されており、役員の誠実な職務執行とは言い難いと思われる旨を指摘
   した上で、本件規約を改正し、
   @被告の事業につき、30万円を超える購買、委託、外注工事については、入札制度によ
     り選定すること、
   A入札の結果は公開すること、
   B被告は、役員個人、役員が関わる会社及び役員の親族の会社と取引、契約等をしては
     ならないこと、
   C役員は、その関連する企業を含め、被告に対し見積書の提出等の営業行為をすることが
     できないこと
   等の規定を盛り込むことを内容とするものであった(甲22)。

   結局、その後、原告と被告との間で、本件名簿の閲覧に関する具体的な協議が調わなかっ
   たため、原告による本件名簿の閲覧は実現しなかった。

2 争点及び争点に関する当事者の主張


 (1)争点1(本件閲覧請求が正当な理由を欠き、権利濫用に該当するか)

  【被告の主張】

  以下述べる事情によれば、本件閲覧請求は正当な理由がなく、権利の濫用に当たる。
  ア 原告は、被告の理事として、理事会に出席して意見を述べる立場にあり、それを実践す
    ることが役員としての誠実義務の一内容であるにもかかわらず、突然理事会に出席して
    こなくなり、本件閲覧請求の根拠となる本件議案の内容について理事会に一度も提案せ
    ずにいきなり訴訟を提起し、仮処分申請にまで及んだ。

  イ 被告の理事会では、平成29年5月末頃から、原告が主張する本件議案について検討を 
    始めているが、原告が理事会に出席しないため、その趣旨・理由等が明確にならず、代
    替案の検討ができないでいる。

  ウ 原告主張の役員の誠実義務については、既に本件規約39条1項に定めがあるが、もう
    少し具体化しようとして、平成29年6月25日開催の被告の通常総会において、利益
    相反取引防止の条文追加を提案した。ところが、原告は、自ら反対意見を述べ「金額と
    一体でなければ」と発言し、これに同調する組合員もいたため上記議案は否決された。

    このように、原告は、自らの提案内容の一部を、被告が提案したがゆえにぶち壊したの
    である。なお、被告提案の利益相反取引防止の条文は、国土交通省作成のマンション標
    準管理規約と同文であり、原告の言い分は意味をなさない。

  エ 現在、被告の理事会において、被告が工事を発注する場合の細則を検討中であり、案が 
    まとまり次第総会に上程する予定である。その内容は原告の案とは異なるが、方向性と
    しては同じである。したがって、少数区分所有者の総会招集請求権を行使するための本
    件閲覧請求は、その必要性がない。

  オ 役員の誠実義務や工事発注の規則案は、早めに総会に上程することが望ましいものの、 
    今のところ緊急工事はないと考えられるし、大規模修繕工事もまだ具体的に予定されて
    はいない。したがって、急ぎ弁論を終結し判決を必要とするほどの理由も緊急性もない。

  カ このような状況の中で、一方的に原告が提案する内容の議題及び議案の要領による総会    
    の召集・開催が行われるとしたら、原告以外の役員の意見が全く反映されないまま原告
    の意見のみにつき組合員の賛否を問うことになり、管理組合運営の根幹を成すルールが
    決定されることになる可能性がある。

    また、理由を付した書面による名簿閲覧請求権行使が無条件に認められ、判決が下され
    るということになると、公平な管理組合運営が歪められる可能性も否定できず、本来の
    少数区分所有者の総会招集請求権の趣旨を没却することにもなる。

  キ 原告が主張する本件議案の提案理由は、被告の特定の役員があたかも工事業者を紹介し
    て何らかの利益を得ているような薄汚い行為を想像させる内容となっており、判決によ
    りこのまま本件閲覧請求が認められるということになると、組合員は、上記役員が不正
    な行為をしたために判決が出たものと誤解することになるし、上記役員の名誉や信用を
    著しく傷つけることになる。

  ク 個人情報保護法の趣旨を踏まえると、本件名簿は極めて慎重な扱いが要求されるとこ    
    ろ、原告に本件名簿を見せたくないと明言する組合員も少なからずいた。組合員が被告
    に対し個人情報である自己の住所や書類の送付先を明らかにしているのは、被告におけ
    る管理業務の遂行上必要性があるからであって、この目的を超えて、自己の住所や連絡
    先を第三者に明らかにすることを望まないことは当然である。

    本件名簿には、部屋番号、氏名、自宅電話番号、携帯電話番号、勤務先電話番号、住所、
    送付先住所が記載されているほか、備考欄がある。組合員全員が上記情報を全て提供し
    ているわけではないが、これらは極めて機密性の高い個人情報であり、開示するには高
    度の必要性が認められる必要がある。

  ケ 以上によれば、原告の請求は正当な理由がなく、又は権利濫用により棄却されるべきで
    ある。または、被告から組合員に対する個別の問い合わせにより、部屋番号、氏名、送
    付先住所の閲覧に同意した者について、その部分のみの閲覧を原告に認めるべきである。

  【原告の主張】

  被告の主張は争う。
  原告が被告の理事であること、被告の総会で既に案が提案されたこと、理事会が規約案を
  検討していることなど、被告が主張する事情は、いずれも本件閲覧請求を妨げる事情とは  
  いえない。役員の意見が反映されない原告の意見の賛否を組合員に問うことがなぜ問題な  
  のであろうか。組合員の総会招集権は、こうした状況を予定した規定といえる。  
  また、本件請求が認められたからといって、被告の特定の役員が不正をしたことが認定さ  
  れたことにはならない。

  本件名簿に個人情報が含まれているとしても、共同建物における自治の一環として相互に  
  連絡先を知り合うことを本件規約は予定しており、そのことに同意して各組合員は本件マ  
  ンションの区分所有者となっているのであるから、住所等の相互開示について組合員は同
  意しているものと解される。もちろん、原告は本件で主張している目的でのみ住所等の情  
  報を使用するものであり、営業に用いる等の不当な目的は有していない。

 (2)争点2(閲覧請求の範囲)

  【被告の主張】

  本件閲覧請求が認められるとしても、閲覧の範囲は、組合員の部屋番号、氏名及び送付先
  住所に限定すべきである。

  上記の情報は、登記簿により公にされていることから、閲覧はやむを得ないとしても、自  
  宅電話番号や携帯電話番号、備考欄等は、もともと公にされている情報ではなく、書面の  
  送付では間に合わないなど、緊急に本人に伝達すべき事態が生じた場合の連絡方法として  
  本人が届け出ているものであり、個人情報保護法の観点から最大限尊重されるべきもので  
  あって、慎重に取り扱わなければならない、しかも、これらの自宅電話番号等は、組合員  
  全員が記載しているわけではなく、閲覧を認めると、結果的に個人情報の取扱に差異を設
  けることとなり、甚だ不適切である。

  さらに、原告は、本件名簿のうち、部屋番号、氏名及び送付先住所を開示すれば、原告主張
  の本件閲覧請求の目的を十分に達成できるはずである。

  本件規約66条は、国土交通省作成のマンション標準管理規約と同一の文言であるが、
  管理規約等に何らかの制限規定がなくても、個人情報及びプライバシーは慎重に取り扱う
  べきであり、組合員名簿の閲覧請求の理由との関係で必要な範囲内での開示に限るべきは
  当然である。

  【原告の主張】

  被告の主張は争う。
  自宅電話番号や携帯電話番号、勤務先電話番号が個人情報に該当するとしても、区分所有
  建物における目的のため、各組合員が正当な目的のために他組合員の連絡先をしり得るこ
  とについて、組合員は本件マンションの組合員資格を取得した時点で同意していると解される。

  電話番号等の情報は、緊急に本人に伝達すべき事態が生じた場合の方法としてのみ届け出
  ているとはいえず、書面によっては連絡が取りにくい者に対して必要に応じ電話連絡を行
  うことは想定されている。

  被告においては、議案の内容を正確に把握しないまま無自覚に委任状を提出している組合
  員も相当数存在すると考えられるところ、原告は、こうした組合員に対して本件議案の内
  容について状況に応じて電話で説明する必要があり、送付先住所の開示だけでは、本件閲
  覧請求の目的を達成することは困難である。

第3 当裁判所の判断


1 争点1(本件閲覧請求が正当な理由を欠き、権利濫用に該当するか)について

 

  被告は、原告が被告の理事であるにもかかわらず、理事会での議論を通さずに、本件議案
  を直接総会に提案するために本件閲覧請求をしていることなどによれば、本件閲覧請求は
  正当な理由を欠き、権利濫用に該当する旨主張する。

  しかし、本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して
  本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握
  することを目的としている。まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求
  であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は濫用的な側面を見出すことはできない。

  被告は原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどど
  主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案
  された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るよう努力すべきであって、
  本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない。

  このような被告又は被告の理事会の対応は、本件議案に反対であるがために、本件議案
  の総会への提案を阻止するための便法として、本件閲覧請求を拒否しているといえるので
  あって、少数組合員による権利実現の機会を保障するため、組合員に総会招集権を認めた
  本件規約46条(前提事実(2)イ)の趣旨を没却するものであり、言語道断というほかない。

  本件規約に基づく組合の公正な運営を歪め、その立場を濫用しているのは、被告又は被告
  の理事会であって、その主張には一片の合理性も認められない。

  また、被告は、本件閲覧請求が権利濫用に該当する根拠として、本件名簿に極めて機密性
  の高い個人情報が記載されていることを主張する。しかし、本件閲覧請求は、組合員による
  総会召集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされ
  ており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に組合員の個人情報として前提事実(3)イ
  記載の各情報が記載されているからといって、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認め
  ることはできない。

  その他、本件全証拠によっても、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めるに足りる事情
  は見当たらない。

  したがって、本件閲覧請求が、正当な理由を欠き、権利濫用に該当するとは認められず、
  被告の上記主張を採用することはできない。

2 争点2(閲覧範囲の制限)について

 

  被告は、本件閲覧請求が認められるとしても、組合員の自宅電話番号や携帯電話番号、備考
  欄など極めて機密性の高い個人情報が記載されていること、本件閲覧請求の目的を達成する
  には、組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所のみ閲覧すれば十分であることから、閲覧の
  範囲を組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所に限定すべきである旨主張する。

  しかし、前記説示のとおり、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体
  の利益に帰する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らす
  と、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重
  な検討が必要である。特に、本件では、前記説示のとおり、被告が本件議案の総会への提案
  自体を阻止することを目的として本件閲覧請求を拒否していると認められるのであり、
  なおさら慎重な検討が必要といえる。

  以上の観点に立った上で、本件閲覧請求の目的の重要性に照らしてもなお、本件閲覧請求に
  よる本件名簿の閲覧の範囲を制限すべき事情があるかどうかについて検討すると、本件名簿
  の記載内容(前提事実(3)イ)その他本件全証拠によっても、そのような事情を認めるに
  足りない。

  したがって、本件閲覧請求による本件名簿の閲覧の範囲を限定すべきとの被告の主張は採用
  することができない。

第4 結論

  よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

  東京地方裁判所民事第33部  
  裁判官砂古剛

判決 −完ー


 (以下はマンションNPOの解説です)

8.5 閲覧請求権に係る区分所有法と標準管理規約の規定

○ 区分所有法における閲覧規定は、「利害関係人」の「管理者」に対する閲覧請求で、
  閲覧の範囲は、管理規約(32条2項)、集会の議事録(42条5項)、全員合意書面
  (45条4項)とし、その他の規定はない。

  上記の各項には「正当な理由がある場合、閲覧を拒否できる」旨の規定があるが、
  「正当な理由がないのに、閲覧を拒んだとき」は、その行為をした管理者、理事、
  規約を保管する者、議長又は清算人は、二十万円以下の過料に処せられる。(71条)

○ 標準管理規約では、区分所有法よりも閲覧の範囲を広げている。

第64条第1項 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、
  書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書
  面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。
  この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

第64条第2項 ・・本条第1項・・の規定により閲覧の対象となる図書
  設計図書・修繕等の履歴情報 (H28改正)

第64条第3項 ・・本条第1項・・の規定により閲覧の対象となる図書
  財務・管理に関する情報

 ※ (標準管理規約には閲覧を制限する規定はない)


8.6 標準管理規約の「利益相反取引の防止」規定

標準管理規約・(利益相反取引の防止)
第37条の2 役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な
        事実を開示し、その承認を受けなければならない。
  一 役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
  二 管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益
    が相反する取引をしようとするとき。


  閲覧を拒否した被告理事会側は、原告組合員が提出した利益相反取引防止の具体的
  な規約案に対し、「(我々)被告提案の利益相反取引防止の条文は、国土交通省作成
  のマンション標準管理規約と同文であり、原告の言い分は意味をなさない。」(争点1
  被告の主張ウ) として、「国土交通省作成のマンション標準管理規約」を絶対的権威
  あるものと主張し、「それと同文にするのだから、他は意味をなさない」と弁明したが、
  裁判官はその弁明には一顧だにしなかった。

  原告組合員が提出した利益相反取引防止の具体的な規約案は、
  {第2 事件の概要} の中の {1 前提事実} {(4)本件訴訟提起後の経緯}で述べている。


8.7 寄席噺

この判決を遠山の金さんが述べると、こうなる。

「悪い奴らほど、お上の威光を笠に着る。
町内世話役らの汚ねえ賄(まいない)をやめさせようとして、 上訴人が作った具体的な町内の決まり事に比べりゃあ、 幕府の役人が作ったきれいごとの訓示なんざあ屁のツッパリにもなんねえ。

掟があるから長屋の身分帖はみせられねえだと? 
身分帖ってのは、公平で私心の無い世の中を信じて長屋の住民達が「あっしらは、 こういう者でござんす。お互い、何かあったら、お知らせ願いやす。」と世話役に届け出たものだ。

それを、世話役の立場を利用し長屋の普請にかこつけて私腹を肥やし、 その隠し事を世間に知られたくねえ口実にお上の掟を持ち出すとは言語道断、不届き千万である。

つべこべ言わずにさっさと身分帖を出しやがれ! 訴えの費用は全部世話役らが持て。良いか。 これにて一件落着!」バシッ(扇子を叩く音)
                       〜 講談師、見てきたような嘘を云い 〜

ー 法の正義は正しい者の手にある ー (アダム・スミス)


Key Word :
Abuse of Power / Board Goes Too Far (職権濫用 / 理事会の暴走)
management override(マネージメントオーバーライド=誰のチェックも受けずに行うこと)
詳しくは、 「管理組合会計」>4.2 管理組合監査 >「管理組合における監査の必要性」

(2020年10月22日掲載 随時更新)