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(4) 控訴審判決 (2021 ONSC 7113 )

【年度別目次】 (2021)  (2022)  (2023)

この頁は(4)です
No.事件番号内容判決日
(1)No. 2021 ONCAT 1 【抗告】被告が訴え却下の申立て・棄却2021年1月12日
(2)No. 2021 ONCAT 13 【判決】管理組合のハラスメントを認定、損害賠償を命令2021年2月16日
(3)No. 2021 ONCAT 32 【判決】組合文書の訂正要求、訴えの却下2021年4月15日
(4)No. 2021 ONSC 7113 【控訴審判決】管理組合が控訴・控訴棄却2021年10月28日
  (1)〜(4) 中間解説 あとがき・訳注(2022.09,20) 

事件の概要

ここは来客用だとして共用部の障害者用駐車場を障害者の区分所有者に使わせなかった管理組合に対し、
障害をもつ区分所有者が、使用者適格と管理組合によるハラスメントの確認を求めて裁判所(CAT)に提訴
(1) 被告管理組合は、裁判所(CAT)には裁判権がないとして訴え却下を申立て、CATはこれを棄却(2021 ONCAT 1)
(2) 裁判所は原告の使用者適格と管理組合によるハラスメントを認定、管理組合に損害賠償を命令(2021 ONCAT 13)
(3) 組合文書の訂正要求、訴えの却下(2021 ONCAT 32)
(4) 敗訴した管理組合は高等裁判所に控訴、高等裁判所はこれを棄却。原審判決が確定(2021 ONSC 7113)

本頁(4) 控訴審判決」(No. 2021 ONSC 7113) ENDORSEMENT 目次

○ 控訴審事件 (DIVISIONAL COURT FILE)
○ 控訴審判決 (ENDORSEMENT)
○ 法令の体系 (Statutory Scheme)
○ 控訴審は、再審を棄却すべきか?
   (Should the Divisional Court dismiss the judicial review application?)
○ 分析 (Analysis)

 

控訴審判決 No. 2021 ONSC 7113 DIVISIONAL COURT FILE NO.: 11/21

DIVISIONAL COURT FILE NO.: 11/21
DATE: 20211028

SUPERIOR COURT OF JUSTICE ONTARIO
DIVISIONAL COURT
RE:
       PEEL STANDARD CONDOMINIUM CORPORATION NO. 779, Applicant
         AND
         AQIB RAHMAN, Respondent
         AND
         CONDOMINIUM AUTHORITY OF ONTARIO - CONDOMINIUM
         AUTHORITY TRIBUNAL, Respondent
BEFORE:   F.B. Fitzpatrick, S.T. Bale and Kristjanson JJ.
COUNSEL: Antoni Casalinuovo and Victor Yee, for the Applicant
          Aqib Rahman, Self represented
          Luisa Ritacca and Dragana Rakic for the Respondent Condominium Authority Tribunal
HEARD at Brampton by Videoconference: October 20, 2021

控訴審判決 (ENDORSEMENT)

判決日:       2021年10月28日
控訴裁判所:    オンタリオ高等裁判所   控訴裁判所 ( 訳注(8) 控訴裁判所とは
事件名:        原告、ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779)  対
            被告、アキブ・ラーマン  及び
            被告、オンタリオ・コンドミニアム裁判所
裁判官(3名):   F.B. フィッツパトリック、 S.T. ベィル、 及び クリスティアンソン JJ
代理人弁護士:   アントニー・キャサリヌオーヴォ 及び ビクター・イー(原告側弁護士)
            アキブ・ラーマン、(被告本人弁護)
            ルイーサ・リタッカ 及び ドラガナ・ラキック(被告オンタリオ・コンドミニアム裁判所側弁護士)
聴聞:         2021年10月20日 ブランプトンにおけるビデオ会議にて実施

控訴審判決 (ENDORSEMENT)

 裁判官・クリスティアンソン JJ  記

[1] 本事件は、原告管理組合の提訴による再審(judicial review)である。
  被告アキブ・ラーマン氏は原告管理組合が管理する共同住宅の区分所有者であり居住者である。
  本件紛争の根本は、ラーマン氏は共同住宅敷地内で来客専用に指定された障害者用駐車場の
  使用権限を有していたかどうか、そして、共同住宅の管理組合は、ラーマン氏の駐車場使用に
  関する執行費用を強制的に課す権限を有していたのかどうかに関連している。

[2] ラーマン氏は、管理組合を被告として提訴し、法に基づく限定された裁判権を有するコンドミニアム
  裁判所(CAT:Condominiuum Authority Tribunl)によるオンライン紛争処理手続きを開始した。

  管理組合は、CATに対して二つの対話形式での抗告を行った。ひとつは、裁判権と不適切な提訴
  に関して、他の一つは偏見の合理的な懸念に関するものである。

  どちらも本訴の審理に先立って抗告棄却の処分が下された。続けて書面による陳述が開始され、
  CATの判事ローリー・サンフォードが担当し、CATは駐車場事件として、ラーマン氏に対する駐車場
  の使用権に焦点をあて、法廷は本事件を審理する管轄権を有すると判断し、障害者が使用可能な
  駐車場(the accessible spot)の使用に関してラーマン氏に有利な判決を下し、管理組合に対し、
  ラーマン氏への損害賠償金の支払を命じた。
                     (ラーマン対ピール管理組合779事件:2021 ONCAT 13)

[3] 原告は抗告審における対話形式の審尋と本審における聴聞はともに、CATの裁判権を逸脱し、
  手続き上の公正さと法の適用に関して幾つかの誤りがあったと主張する。

 

[4] 本事件の予備審において検討されたのは、CATの決定に対する控訴を審理する法定の権利が当法廷
  に与えられているか否か、本控訴を棄却すべきか否かということであった。

  当法廷は、管理組合が権利の主張を使い尽くした上で敗訴し、この時点で再審を請求した背景を考慮
  すれば、特別の事情や事実が提示されない限り、正当な理由に基づく判決に控訴裁判所が干渉して
  あらためて裁判をやり直す例外的な事情はなく、本控訴は棄却すべきであると判断する。

 法令の体系(Statutory Scheme)

[5] CATは比較的新しい行政裁判所である。控訴審本法廷に対してCAT判決に関する報告はない。
  CATは共同住宅法法1998(S.O.1998,C19,以下「法」と略)の1.36(1)-(2)に基づき、2017年
  に創立され、共同住宅における管理組合対区分所有者、若しくはそれらの相互の間の定められた
  紛争を解決する権限を与えられている。この紛争当事者には、購入者、抵当権者、販売業者も含
  まれる。

[6] 法 のセクション1.36に基づく申請でCATが解決できる紛争は、コンドミニアム裁判所規則(O. Reg.179/17)
  (通称CAT規則)で規定されている。宣言書、管理規約、使用細則その他の共同住宅関連規則を含む
  紛争処理を扱い、中にはペット飼育、車両、駐車場、倉庫などのほか、2020年10月1日改正以降は
  賠償金、補償金関連の紛争が含まれる。 

  但し、法117条に規定する住戸内または共有部内における危険な活動を禁止する紛争に関しては、
  CATの裁判管轄からは除外されている。

[7] CATは、同法に基づいて付与された権限を行使し、制定法または規制の憲法上の妥当性に関する問題を
 除き、それ以外の手続において生じるすべての事実または法律の問題を決定する専属管轄権を有する。

[8] CATは完全なオンライン審理による紛争解決手続きを採用した最初のオンタリオ州裁判所である。
  この手続きには3段階あり、CATの調停員が相談に応じて行う和解、裁定前の聴聞による調停、そして
  文書、オンライン聴聞による裁定により最終判決となる。このモデルは最小の費用と期間で、本人訴訟が
  可能なようにデザインされている。この方式は非常にユニークな紛争解決システムとして、ペット、車両、
  駐車場、倉庫などをめぐる紛争を迅速に低コストで解決している。

[9] 当事者は、法1.46(2)項に従って、法律の問題に関するCATの決定を控訴裁判所に上告する権利を有し、
  これには以下が規定されている

  1.46(2) 当事者は裁判所規則に従い、原審判決に対して、法律上の問題を控訴裁判所に控訴できる。
     (3) 控訴審では、原審判決を確定(affirm)、逆転(reverse)、変更(vary)することができる。

[10] この上告権を条件として、法1.46項は、「手続における控訴審の決定は最終的かつ拘束力のあるもの
  である」と規定している。

控訴審は、事件の再審を棄却すべきか?
( Should the Divisional Court dismiss the judicial review application? )

[11] 被告CATの代理人弁護士は本控訴審において次のように陳述した。
  当事者が権利の主張をしてその結果、自己に有利な判決を得る事に失敗した場合、再び審理を開始
  するには、例外的状況の存在が原告に有利となることが認められる場合、或いは、更に進んでCATが
  控訴審の見直しと異なる基準を用いて判断した場合、及び 法146条に基づいて本控訴審における
  原告の主張がCATの判決を逆転させる見込みがある場合に限られるべきである。

[12] 被告ラーマン氏は次のように陳述した。
  当法廷本来の権限を用いて審理プロセスを管理し、裁判制度の濫用である本訴を棄却すべきである。

[13] CATが適切な法定控訴の道筋に関する懸念を最初に提起したのは、2021年6月であった。
  代理人弁護士のつかない本人弁護の当事者では関係する問題の議論には到達し得ない。

  しかし、時機を得た助言ができる弁護士がついているなら、控訴を断念して同意することも含めて、
  控訴通知の提出期間の延長、控訴手続きなど、懸念を解決する生産的な手段の議論に参加できる。

  管理組合は、本日の控訴審に先立つ予備審において、この問題に対する回答は提出しなかった。
  控訴にあたっては、資料の提出もなく、予備審出席管理の求めにも応じなかった。
  控訴審法廷開始に先立つ予備審の打ち合わせ会議では、原告は主張を変更することができる。
  これらの措置のいずれかが、今日起こっている事を防いでいた可能性があり、当事者と裁判所の
  資源の浪費を回避できたであろう。

分析(Analysis)

[14] 法定の権利を追求することに失敗した原告・管理組合が控訴し、再審請求したことを拒絶(refuse)
  するか、再審のための聴聞(hear the judicial review)を開くかを判断するために予備審(preliminry
   issue)が準備されている。

  再審手続法(the Judicial Review Procedure Act ,R.S.O.1990,cJ.1 "JRPA" )の2(1)項は、控訴により、
  行政の決定権者の決定に対して、控訴の権利をもって対抗することで司法の秩序を保つものであり、
  ("despite any right of appeal")、同2(5)項は、裁判所は、上訴のために救済を与えることを拒否する
  ことができると定めている。

[15] 再審制度は、他に適当な代わりの救済手段がない場合に残された無制限の救済手段である。
  最近、当裁判所で審理した「ヤター 対 TD保険メロシェ マネックス事件 (Yatar v.TD Insurance
  Meloche Monnex,2021 ONSC 2507)」(控訴審)では、
  控訴裁判所に対して、ある行政機関の決定に対する控訴権に制限を加えるのは、再審裁判における
  適切な救済策を構成する。それゆえに、法廷は、再審事件の判断にあたっては、
  「もしも特別な事情があるなら("if at all,in exceptional circumastances.")」という条件に該当しない
  再審事件は、それらの側面に関して、法で定める控訴権の適用判断に注意すべきである。

[16] 原告管理組合は、判決に対する控訴だけでなく、緊急事態でもないのに、なぜそんなに急いで再審
  裁判を望むのかについては、何も説明しなかった。聴聞の際に、この件について原告代理人弁護士
  に尋ねた処、代理人は裁判手続き上の公正さと片寄った考え・偏見に基づいている懸念について、
  これらの違反が控訴理由であると述べた。

  しかしながら、本法廷では、法律の問題点を提示する必要があることは明白である。手続き上の公平
  さと裁判権の問題は「例外的な状況」を構成しない。法定の控訴理由を回避して再審を進めるには、
  法の問題点を控訴審の場で主張することが必要である。

[17] ティッピング対コセッコ保険会社事件Tipping v. Coseco Insurance Company,2021 ONSC 5295
   (控訴審.)の判決でファブロー判事は、原告による特別な状況の提示なしでは先審決定に対する
  控訴はできないという判断を示した。ファブロー判事はこの判決のパラグラフ36で下記を示した。

    再審は、適切な代替救済策が存在する場合には利用できない裁量的救済策である。
    ハレルキン 対 レジーナ大学事件(Harelkin v. University of Regina, 1979 CanLII 18 (SCC),
    [1979] 2 S.C.R. 561)
    特別な状況が欠如していて、原告がすべての代替救済策をすべて使い切っていない場合は、
    裁判所は再審の申請を却下する。ボロッチャィ 対 オンタリオ・マッサージ・セラピスト事件
    (Volochay v. College of Massage Therapists of Ontario, 2012 ONCA 541.)判決のパラグラフ
    68〜70では、当事者が権利の主張、または他の適切な救済策を提示しないとき、控訴審は、
    再審を繰返し棄却してきた。それらの例を下記に示す。
    Stentsiotis v. Social Benefits Tribunal, 2011 ONSC 5948;
    Worden v. Ontario Municipal Board, 2014 ONSC 7247;
    Hsieh v Ministry of Community and Social Services et al, 2017 ONSC 3094; and
    Vangjeli v. WJ Properties, 2019 ONSC 5631.

[18] ティッピング対コセッコ保険会社事件では、控訴審判決のパラグラフ41で下記の判断を示した。
  偏見を持った陳述があったとしても、手続きが公正で適切な裁判は、法の問題である。従って
  これらの問題に関するLATからの訴えは、それゆえに、明らかに適切な代替手段である。
  CATからの控訴審でも同様の例がある。サビック 対 オンタリオ内科外科大学事件である。
  (Savic v. College of Physicians and Surgeons of Ontario, 2021 ONSC 4756 (Div Ct))
  控訴審では原告が法定の控訴の追求を怠ったことを理由として控訴を棄却した。
  控訴審判決のパラグラフ35では「手続きの公正さの問題は控訴提起の理由になるが、
  不公平な手続きに関する主張は、「例外的特別な状況」を構成しない。」と判断した。

[19] 当法廷はCATからの法定控訴制度に関する立法府(議会)の意図を考慮しなければならない。

  カナダ移民市民権大臣 対 バビロフ事件(Canada (Minister of Citizenship and Immigration)
  v. Vavilov, 2019 SCC 65,)で最高裁 の判決のパラグラフ24では、以下のように述べている。
  「立法府が司法制度設計に影響を与える「司法概要」の33〜34、及び36で重要視したのは、
  司法を監督する立場としての高等裁判所は、再審にあたっての「北極星」である」とくりかえし
  述べている。

  裁判官は、立法府の制度設計上の意図がCATの判決に対して、法の解釈の問題のみに限定し、
  CATが判断した事実または法と事実が混在した問題に対して「最小限の司法干渉で機能」
  できるようにするという立法府の意図に重きを置かなければならない。

[20] 同時に、管理組合がこれまで法令による控訴で法律の問題として取り上げられてきた核心の問題
  について考察すると、CATは本件の裁判権を有しているか、審理が偏見を持っている合理的疑い
  があるか、損害とその賠償費用の判断に関して法の適用の誤りがあるかという問題を含んでいる。

[21] 本事件は、再審請求によって裁判所の裁定に対する干渉や妨害を行うための例外的な状況
  を提示していない。
  先に述べたヤター事件判決のパラグラフ39では、「鍵となる問題は、再審が、適切かつ尊敬さ
  れるべき法令の骨組みと目的と法令上の方針をはっきり示すことである。」としている。
  立法府の意図は、CATは法の問題のみで控訴されるということの決意である。
  適正な法の手段は、法によって定められている控訴の手段を追求することである。

[22] 管理組合は、本件は今日、法定の控訴としての手順を踏むべきであると主張した。
  被告は上告審査請求を出して、法令に基づいて上告する事もできる事を引き合いに出してきた。
  法令に基づく上告の可能性をひきあいに出す事は、法的な主張を意味しない。
  これは、適切な救済策を追求しないことの重要性の誤解を表している。
  そこには民事訴訟規則(Rules of Civil Procedure,P.R.O.1990,Reg.194.)規定の再審手続きに
  関するものとは異なる別の支配的な要求が存在する。
  裁判所の権限に対する考え方が違う。CATの役割に対する考え方が違う。

  裁判官は、次のように判断する。
  法定控訴が法律の問題に限定される(そして適切に構成される)という要件の重要性を考えると、
  これが適切に構成された上訴であるかのように進めることは当事者にとって公正ではない。
  訳注(9) 裁判の公平性)

  裁判官はまた、重要な相違点に着目する。
  法定控訴が上訴審の審査基準の対象であることを考えると、審査基準が議論にもたらす大きな違い
  に重きを置く。

[23] 原告管理組合は、控訴審の期間の延長を求めて抗告を提起するために、被告ラーマン氏とCATに
  通知する旨の申立てをしたが、裁判官は本件を決定で、棄却するものとする。
  原告は、期間延長の準備手続きとして、被告ラーマン氏に、裁判所が被告に期待するものとして、
  時間の延長に同意するかどうかの意思の確認を求める必要がある。
  当事者は控訴におけるCATの適正な役割について綿密な検討をするべきである。

[24] 原告管理組合はラーマン氏の本件における費用総額150ドルをラーマン氏に直ちに支払え。
  被告CATは費用の賠償を求めず、他には誰も課されない。


          裁判官 クリスティアンソン           “Kristjanson J.”
私は同意する 裁判官 F.B. フィッツパトリック   I agree “F.B. Fitzpatrick J.”
私は同意する 裁判官 S.T. ベイル         I agree “S.T. Bale J.”
Date: October 28, 2021


(以上 マンションNPO 訳)       (2022年9月20日初版掲載・2023年4月27日更新)
(Initial Publication - 20 September 2022/ Revised Publication -time to time)