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はじめに

耐震診断を断念したマンション・その理由

1978年(S53年)11月竣工・9階建・60戸のマンションが、
2011年3月11日東日本大震災で震度6弱の揺れに見舞われた。(震災当時、築年数33年)
主要構造部の柱や梁には大きな損傷は見られなかったが、
雁行躯体接続部の二次壁が剥がれ落ちた。  x1 修繕の用語説明 「二次壁」

建物の継続使用に不安を感じた住民と管理組合は耐震診断を受けて、
その後の復旧復興の方針を決めようということになりました。

震災後の復興作業(主な活動内容)
(分譲時の委託管理を2年で打切り、以後31年間、自主管理を続けている法人管理組合です。)
2011年3月11日:東日本大震災発生
    がれき撤去・ライフライン確保に動く  
4月14日:理事会・復興委員会合同会議(第一回)開催
5月29日:第31回定期総会開催
6月 9日:理事会・復興委員会合同会議(第二回)開催
6月25日:復興改修実施設計業務委託契約締結
    委託先:○○建築設計事務所
8月1日:工事業者説明会開催(於:○○建築設計事務所)
8月8日: 理事会・復興委員会合同会議(第三回)開催
8月19日: 改修工事見積提出期限

この作業の中で、1,200万円の耐震診断調査費の見積を受け取った住民と管理組合は、
結局、耐震診断を断念することになります。

耐震診断を断念した理由:
(1)診断費用が予想をはるかに超える大きな額だった。
 業者選定の問題よりも、どのレベルまで実施するかの質的な問題が大きい。
(2)この地方都市では耐震診断・耐震改修に対する補助金制度は一切ない。(地域格差)
 「耐震診断義務付け対象である旅館・ホテルに対する都道府県・政令市における耐震改修への補助制度の整備状況」では、 平成27年6月中旬時点で、47都道府県中、補助制度なしが14県もある。法令義務付けのない一般分譲マンションへの現実はもっと厳しい。(下記 ※1参照)
(3)耐震診断で、例え「安全(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)」という結果が出たとしても 気休めに過ぎず、現実に損傷を受けた部位をそのままにはできない。
(4)耐震診断はあくまで新設したときの状態における机上の計算による予測であり、時間の経過と共に老朽化によって当初の耐震性は低下していく。
現実に震度6弱で揺られた我々の建物はまさに築33年経過した状態で実証試験を受けたに等しく、 その結果を詳細に点検して、具体的に耐震改修の効果的な方法を検討するほうが現実的ではないだろうか。
(5)結論:診断に時間とお金をかけるのをやめて、それを復旧復興への労力と資金にあてよう。

その後、この管理組合では損傷部位の復旧工事だけではなく、 専有部床下埋設給排水管の全戸一斉更新を含む給排水管全面更新、埋設ガス管の更新、非常階段の更新、 エレベーターの更新(メーカー変更)、エントランス及び集合郵便受けの交換工事などを実施しました。

 

1 法令で耐震診断が義務付けられているケース

(1)耐震診断義務付け対象建築物のための耐震診断
○病院、旅館などの不特定多数の方が利用される大規模建築物等(平成27年12月31日まで)
○避難路沿道建築物、防災拠点建築物(地方公共団体が定める日まで)
詳細は⇒「耐震改修促進法における規制対象一覧)」(PDF:86KB) をダウンロードしてください。

(※1) 国が単独で費用の一部を補助する「耐震対策緊急促進事業(平成28年3月31日までの時限的措置)」の耐震診断・耐震改修でも、 対象は下記に限定されています。
 @ 要緊急安全確認大規模建築物
  ・病院、店舗、旅館等の不特定多数の者が利用する大規模建築物
  ・小学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する大規模建築物
  ・火薬類等の危険物の貯蔵場・処理場のうち大規模なもの
 A 要安全確認計画記載建築物
  ・地方公共団体が指定する緊急輸送道路等の避難路沿道建築物
  ・都道府県が指定する庁舎、避難所等の防災拠点

(2)マンションの建替え・改修・除却のための耐震診断
現在のマンション総数のうち、旧耐震基準に基づき建設されたマンションは約106万戸もあります。 このような耐震性不足のマンションで耐震改修を行う場合、「区分所有法による改修⇒3/4以上の賛成」が必要でしたが、 「耐震改修促進法」の平成26年改正第25条第3項により、耐震診断が行われたマンションは区分所有法第17条第1項の規定を適用せず、過半数の賛成で改修決議が可能となったほか、 建替え円滑化法の平成26年改正により、耐震診断を行うことを条件に除却も可能となり、要除却認定マンションは容積率等の緩和特例による建替えが可能となりました。

マンションの建替え等の円滑化に関する法律 (平成14年6月19日法律第78号)
                         最終改正:平成26年6月25日法律第80号
第三章 除却する必要のあるマンションに係る特別の措置
第一節 除却の必要性に係る認定等
(除却の必要性に係る認定)
第102条  建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年法律第123号)第二条第一項に規定する耐震診断が行われたマンションの管理者等 (区分所有法第25条第一項の規定により選任された管理者(管理者がないときは、区分所有法第34条の規定による集会(以下「区分所有者集会」という。) において指定された区分所有者)又は区分所有法第49条第一項の規定により置かれた理事をいう。)は、 国土交通省令で定めるところにより、建築基準法(昭和25年法律第201号)第二条第35号に規定する特定行政庁(以下単に「特定行政庁」という。)に対し、 当該マンションを除却する必要がある旨の認定を申請することができる。

2  特定行政庁は、前項の規定による申請があった場合において、当該申請に係るマンションが地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは 条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認めるときは、その旨の認定をするものとする。

3  第一項の認定をした特定行政庁は、速やかに、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事等(当該特定行政庁である都道府県知事等を除く。)にその旨を通知しなければならない。


除却や建替え決議の有効性を法廷で争う事態も想定されるところから、そうしたリスクを回避するために瑕疵のない厳格な手続きが要求されています。 耐震診断もこれらの手続きに精通した事業者が関与して行うことが求められていることに留意してください。

 

2 耐震診断の補助制度

都道府県単位の補助制度の多くは都道府県から市町村へのいわゆる間接補助ですが、
 @都道府県からの間接補助はないが、市町村で独自の補助制度を整備する場合
 A都道府県が所管行政庁である市町村の区域では都道府県が直接補助し、それ以外は各市町村の補助制度による場合
 B都道府県が直接補助する場合
 C市町村が補助を行うことを条件として、都道府県が直接補助する場合
 さらには、これらの組み合わせなど、多様なパターンがあります。

詳細は⇒「耐震診断義務付け対象建築物に対する耐震診断・耐震改修への補助制度の概要(平成27年6月中旬時点・都道府県)」(PDF:325KB) をダウンロードしてください。

耐震診断補助制度に関する問い合わせ窓口(都道府県別)
詳細は⇒「耐震診断義務付け対象建築物への補助制度に関する問い合わせ窓口(都道府県)(平成27年4月1日時点)」(PDF:114KB) をダウンロードしてください。

国が単独で費用の一部を補助する「耐震対策緊急促進事業(平成28年3月31日までの時限的措置)」は(※1)で述べたとおりです。

3 耐震診断の準備

 耐震診断義務付け対象建築物であれば勿論のことですが、義務化対象外であっても、老朽度の調査や長期修繕計画の見直しなどを契機として、耐震診断をしてはどうかといった話が持ち上がります。 理事会として耐震診断の実施を決定した場合は、耐震診断の専門家に耐震診断の費用の参考見積りを依頼し、 耐震診断の予算化の資料作成をすることとなります。
なお、耐震診断段階では、出来るだけ費用をかけないで判断したいという区分所有者の要望と技術的に必要となる診断レベルの調整には、 十分に耐震診断の専門家と相談する必要があります。

4 調査費用の予算化

収集した情報を取りまとめて、耐震診断を必要とする理由、耐震診断の内容、耐震診断費用の参考見積り等を示した上で、 管理組合の集会(総会)における議案として、「耐震診断資金の支出方法」について提起します。

耐震診断資金の支出について

@ 管理費から支出する場合
議案の内容:
耐震診断するための資金を管理費(管理組合運営費)から支出し、その予算額は○○円とします。

A 修繕積立金から支出する場合
議案の内容:
耐震診断するための資金を修繕積立金から支出し、修繕積立金を取崩して支出する予算額は○○円とします。

(注)資金の支出について

耐震化の検討における調査、設計費用等については、
管理費から支出する場合は、予算額を定め、管理費の執行に関する議決を得ますが、規約に別段の定めがない限り、 普通決議により、区分所有者及び議決権の各過半数の議決で決します。

修繕積立金から支出する場合、標準管理規約には「その敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために 特別に必要となる管理」のために修繕積立金を支出することができる旨の規定があり、これにならっている管理規約の場合、 規約に別段の定めがない限り、普通決議で決します。

規約上、修繕積立金の使途が限定的に制限されている場合、修繕積立金から耐震診断調査費として予算の認可を受けるには、 管理規約(修繕積立金の使途)の変更が必要です。この場合、特別多数決議により、 区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による議決が必要です。 修繕積立金から支出する場合、ご自分のマンションの管理規約で、修繕積立金の使途がどのように規定されているかを確認してください。

5 委託先の選定

耐震診断については、耐震診断の実績のある認定機関や一級建築事務所等に調査診断業務を委託します。 補助金等を受ける場合、及び建替え円滑化法による認定申請を行う場合は、事前に地方公共団体に認定機関や選定手続き等について確認しておく必要があります。
マンションの耐震診断について正確な知見を持っている事業者はかなり限定されてしまうという背景は理解しておいてください。コンサルタントについても同様です。

6 耐震診断の流れ

建物の耐震性能とは、地震のエネルギーを吸収できる能力のことで、

  • 建物の強さ(地震力に耐える「頑丈さ」)
  • 建物の粘り(地震力を逃がす「しなやかさ」)
  • 建物状況 (建物の平面形、断面形、バランス)
  • 経年状況 (建物の老朽化の度合い)

を考慮して決められます。 耐震診断は、図面や現地での調査に基づき、建物の保有する耐震性能を数値で評価するものであり、 その結果に基づいて耐震化の必要性を確認することとなります。

7 耐震診断の方法

下記の文章は難解でうんざりされると思いますが、要するに「耐震診断は、国が認定した方法によらなければ法的な効力はない」ということを述べています。

耐震診断の方法は、耐震改修促進法4条1項に基づき、 「平成18年国土交通省告示第184号別添(建築物の耐震診断及び耐震改修の実施につい て技術上の指針となるべき事項。以下「指針」という。)第1本文ただし書の規定に基づ き、耐震診断の方法の欄に掲げる建築物の耐震診断の方法を、建築物の耐震改修 の促進に関する法律(平成7年法律第123号)第25条及びマンションの建替え等の円滑化 に関する法律(平成14年法律第78号)第102条の認定において適用する際に同表の対応 する指針の規定の欄に掲げる指針の一部と同等以上の効力を有するものと認める。」旨の「認定書」により、 所管大臣より認定された方法によらなければなりません。

(参考)平成26年11月7日現在における発行認定書は下記の通りです。
耐震診断の方法 対応する指針の規定
「公立学校施設に係る大規模地震対策関係法令及び地震防災対策関係法令の運用細目」 (昭和55年7月23日付け文管助第217号文部大臣裁定) 指針第1第二号
一般財団法人日本建築防災協会による「木造住宅の耐震診断と補強方法」 に定める「一般診断法」及び「精密診断法」(時刻歴応答計算による方法を除く。) 指針第1第一号
一般財団法人日本建築防災協会による「既存鉄骨造建指針築物の耐震診断指針」 指針第1第二号
一般財団法人日本建築防災協会による「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」及び 「既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」に定める「第2次診断法」及び「第3次診断法」 指針第1第二号
一般財団法人建築保全センターによる「官庁施設の総合耐震診断基準」 指針第1第二号
「屋内運動場等の耐震性能診断基準」 指針第1第二号
「一般社団法人プレハブ建築協会による「木質系工業化住宅の耐震診断法」 指針第1第一号
一般社団法人プレハブ建築協会による「鉄鋼系工業化住宅の耐震診断法 指針第1第二号
一般社団法人プレハブ建築協会による「コンクリート系工業化住宅の耐震診断法」 指針第1第二号
一般財団法人日本建築防災協会による「既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針」 に定める「第2次診断法」 指針第1第二号

 

建物の耐震性能とは、地震のエネルギーを吸収できる能力のことで、下記を考慮して決められます。

  IS≧ISOのとき「耐震性を満足する」

 IS:構造耐震指標(建物の保有性能)
  IS=(強度)×(靭性能)×(形状・年による補正係数)

 ※ 「形状・年による補正係数」は、建物状況 (建物の平面形、断面形、バランス)、
   経年状況 (建物の老朽化の度合い)で決定されます。

 ISO:構造耐震判定指標
  ISO=(基本指標)×(建物用途などによる補正係数)

 IS(建物の保有性能)の値を向上させるためには、強度や靭性能を増大させることが有効。

*1)強度増大:
  建物が地震による水平力に抵抗する「強さ」を向上させること。
*2)靭性能増大:
  僅かな変形で脆く破壊することがないように粘り強さを与えて変形することを可能にすること。

構造耐震指標ISの算定

*1)強度指標
建物の強さ(地震力に耐える「頑丈さ」)
建物が地震力によって破壊する時に最大限耐えている力と建物重量の関係から算定します。

構造耐震判定指標IS0の算定

 Es=0.8(第1次診断法)
 Es=0.6(第2次,第3次診断法)

Esの値は、Z,G,Uが1.0の時、IS≧ISOとなる建物が新耐震設計法により設計される建物と、 ほぼ同等の耐震性能を持つという判断のもと設定されています。

*2)靭性指標
建物の粘り(地震力を逃がす「しなやかさ」)、建物の変形性能を表わす。
例えば、薄いガラスの板を曲げようとするとある程度力を加えたところで粉々に割れてしまう。 このように最大限耐えられる力を発揮した直後に崩壊してしまうような性質を「脆性的である」という。
一方、薄い鉄板を曲げようとすると、ある程度力を加えると板が割れることなく曲がっていく。
このように最大限耐えられる力を発揮しながら変形できる性能を「靭性能」という。

建物も構造特性の違いから脆性的なものや靭性能に富むものがあります。
耐震性能上は靭性能に富む構造が望ましい。

(3) 耐震診断

耐震診断は計算のレベルの異なる第1次診断法、第2次診断法および第3次診断法があります。
耐震診断の実施にあたっては、診断の目的、建物の構造特性等に応じて適切な診断法を選定します。

耐震診断レベル
診断次数 第1時診断法 第2時診断法 第3時診断法
適した構造特性

壁の多い建築物に適します。

主に柱・壁の破壊で耐震性が決まる建築物

主に梁の破壊や壁の回転で耐震性が決まる建築物

計算に必要な項目 床面積、階数、階高、柱断面寸法、柱内法長さ、壁断面寸法、腰壁、垂れ壁寸法 (同左)+ 壁開口部寸法、柱配筋、壁配筋、コンクリート強度、柱鉄筋強度 (同左)+ (同左)+ 梁断面、梁スパン、梁配筋、柱・梁鉄筋強度
計算の難易度 易しい 難しい 非常に難しい

 

第1時診断法
比較的耐震壁が多く配された建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法であり、 対象建物の柱・壁の断面積から構造耐震指標を評価します。

第2時診断法
梁よりも、柱、壁などの鉛直部材の破壊が先行する建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法で、 対象建物の柱・壁の断面積に加え、鉄筋の影響も考慮し、構造耐震指標を評価します。 第1次診断法よりも計算精度の改善を図っており、一般的な建物の構造特性に適した、最も適用性の高い診断法です。

第3時診断法
柱、壁よりも、梁の破壊や壁の回転による建物の崩壊が想定される建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法で、 対象建物の柱・壁(断面積・鉄筋)に加えて、梁の影響を考慮し、構造耐震指標を評価します。 第3次診断法は、計算量が最も多く、解析においてモデル化の良否の影響を大きく受けるため、 高度な知識と慎重な判断を要する診断法です。

※ 第1次診断法は極めて簡易な診断法であるため、耐震性能があると判定するための構造耐震判定指標ISOの値が、 第2次診断法・第3次診断法よりも高く設定されています。
したがって、壁式構造を除き、第1次診断法で耐震性能があると評価される例は少なく、 第2次診断法または第3次診断法により耐震性能の評価を行うことが一般的です。

※ 構造躯体の劣化が著しい建物は、耐震診断基準の適用に慎重を要します。
以下のような建物では耐震診断基準の適用の可否を検討する必要があります。

  • コンクリートコアの圧縮強度が平均値で13.5N/muを下回る建物
  • 不同沈下が著しく、構造亀裂の生じている建物
  • 火害を受け、亀裂、剥落等の痕跡の残っている建物
  • 竣工後30年以上経過したもので、老朽化の著しい建物
  • 塩害アルカリ骨材反応の影響により、鉄筋の腐食が著しい建物
  • 凍害などによりコンクリート断面欠損が著しい建物

現行の新築設計でもルート1、ルート2、ルート3と呼ばれる複数の許容応力度等設計法の他、 限界耐力設計法、時刻歴応答解析等、複数の設計法の中から建物の性状に相応しい設計法を選択する必要がありますが、 既存建物の耐震診断においても、建物の特性に合わせた適切な診断法を選択する必要があります。

例えば、壁の多い建物であれば第1次診断法の適用が可能ですが、 梁の性状が支配的な建物に第1次診断法を適用すると耐震性を過小評価することがあります。

第3次診断法など精緻な計算を必要とする耐震診断法の場合は、 建物のモデル化の良否により計算結果が大きく左右されるので、慎重なモデル化が必要となります。

8 予備調査

予備調査は、調査の対象となる建築物の概要を把握し、耐震診断基準の適用の可否、 現地調査で必要になる情報および資料を収集することを目的として行います。 予備調査は以下の事項について調査を行います。

@ 建築物の概要
マンションの名称、所在地、現状の用途、設計者、施工者、 工事監理者および竣工年(建築確認を受けた年)を調べます。
さらに、建物の概略を把握するために、階数、高さ、主体構造の構造種別と構造形式、基礎形式、面積、階高、 平面および立面形状の特徴、主な外装・内装、敷地の地盤・地形等を調査します。

A 設計図書の有無
耐震診断を行うには設計図書が必要であるため、建物の設計に関する記録(一般図、構造図、構造計算書、 仕様書、設計変更図、地盤調査報告書等)の有無を調査します。
その他、老朽化調査など過去に調査した資料の有無も調査します。
設計図書が無い場合には、実測図の作成や耐震診断を行うための資料の作成をする必要があり、 その調査には別途かなりの調査費と時間を要しますので注意してください。 特に竣工図書(原設計図書)の構造計算書を紛失した場合、あらためて計算のために図面から拾い出ししなければならなくなり、 調査費が増大します。

B 建築物の履歴(使用履歴・増改築・大規模な模様替えの有無・経年劣化・被災の有無など)
主として聞き取り調査によって、建築物が設計あるいは竣工時からどのような経過を経てきたか、 またどのような被災に遭遇して現在に至っているかを調査します。
現在の使用状況、増改築の有無とその範囲および時期を確認します。

C 現地調査の可否
マンションの状況により現地調査が可能か否かを判断するため、現地調査の支障の有無を確認します。

D 診断レベルの設定
前述の「耐震診断法による耐震性能の判定」で説明した診断レベルの、 どのレベルで実施するかを、予算を考えながら決定します。

9 現地調査

現地調査は、建物の現況を把握し、設計図書との整合性を確認することや、 建物の劣化状況等の診断計算に必要な調査項目を確認することを目的として行います。

主に第1次診断法で必要となる1次調査と、第2次診断法・第3次診断法で必要となる2次調査に分けられ、 更に精度が求められる場合は精密調査を行います。

現地調査項目の例
調査項目 調査目的 調査方法 1次調査 2次調査 精密調査
使用状況や建物環境の調査 ・現状建物の使用状況の把握
・用途変更や改造の有無を確認
目視による
基礎・地盤の調査 ・建物の傾斜や地形・地盤の把握 目視による
劣化状況調査 ・仕上げ材の劣化状況を把握
・補強以外に補修の必要箇所や落下危険物の有無を把握
目視による劣化状況の確認
躯体ひび割れ状況調査 ・建物の劣化状況を把握 目視によるひび割れ発生状況の確認
ひび割れ幅の測定による
部材調査 ・原設計図書と現状建物の整合性の確認 部材寸法の実測による
鉄筋探査による配筋の確認
仕上げ材除去・ハツリ
コンクリート強度試験 ・診断計算に用いるコンクリート強度の把握 コンクリートコア採取および圧縮強度試験による
コンクリート中性化深さ試験 ・老朽化の程度の把握 コンクリートコアの中性化深さ試験による

◎:必ず実施する   ○:必要に応じて実施   −:実施しない

10 構造耐震指標等の評価

建物の保有する耐震性能は、構造耐震指標ISという数値を算出し、構造耐震判定指標ISOと比較することにより評価します。

IS :構造耐震指標(耐震診断を行った建物の耐震性能を表す指標)

ISO:構造耐震判定指標(現行の建築基準法等により設計される建物とほぼ同程度の耐震性能を表す指標)

建物の耐震性の判定では、構造耐震指標ISが構造耐震判定指標ISO値以上であれば、「安全(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)」とし、 そうでなければ耐震性に「疑問あり」とすることによって、耐震化の必要性を確認する。

IS ≧ ISO ・・・ 「安全(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)」

IS < ISO ・・・ 「疑問あり」

@ 構造耐震指標ISの計算

構造耐震指標ISは、つぎのように算定される。下式に示す保有性能基本指標E0と形状指標SDと経年指標Tにより算定されるものである。

S=建物の強さと粘りの指標(保有性能基本指標Eo )

  ×建物の形状、バランスの良さの指標(形状指標SD

  ×建物の経年劣化の指標(経年指標T )

算定される形状指標SDおよび経年指標Tの値は1.0を最大値とし、建物の形状や経年劣化の度合いが耐震性能に与える影響が大きい場合は、それぞれ1.0未満となり構造耐震指標ISが低減することとなる。

A 構造耐震判定指標ISO

現行の建築基準法等により設計される建物とほぼ同程度の耐震性能を表す指標であり、一般的には第1次診断法の場合は0.8、第2次診断法及び第3次診断法の場合は0.6となる。 ただし、地域や地盤の状況により補正される。

このほか、第2次診断法・第3次診断法では、建物の耐震安全性を確保するために、IS指標による判定に加えて、 最低限必要な建物の頑丈さを満たしているか否かの判定を行うこととしている。その指標(累積強度指標)はCTU×SDという算式で示され、一般的には、0.3以上であることが必要である。 ただし、地域や地盤の状況により補正される。

以上にみてきた構造耐震指標等と耐震性能の判定との関係についてまとめると、次のとおりである。

構造耐震指標等と耐震性能の判定との関係
指標 第1次診断 第2次・第3次診断 判 定
構造耐震指標
IS
0.8以上 0.6以上 「安全」(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)
0.8未満 0.6未満 「疑問あり」
累積強度指標
CTU × SD
RC造の場合:0.3以上
S造・SRC造の場合:0.25または0.28以上
「安全」(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)
RC造の場合:0.3未満
S造・SRC造の場合:0.25または0.28未満
「疑問あり」

*上記については、一般的な数値を示しており、地域、地盤の状況等により数値は異なります

これらの構造耐震指標の評価は、方向(水平面のX方向、Y方向)・階別に算定されます。

全方向・全階で判定指標を満足している場合に安全(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)と判断し、 そうでない場合は耐震化が必要とされます。

 

なお、マンションでは住戸間の壁(戸境壁)は耐震壁付きラーメン構造として設計されている場合が多いので、 梁間方向(短辺方向、ここではY方向)はIs値がIs0値以上で耐震性能が十分ある場合が多い。

それに対し、桁行き方向(長辺方向、ここではX方向)の場合は開口が多くラーメン構造として設計されてはいますが、 昭和56年5月以前の設計ではねばりが少なく耐震性能が劣るものが多い。 したがって、マンションの耐震改修工事は桁行き方向(長辺方向)のみ行う場合が多い。

 

 x1 修繕の用語説明「バットレスによる補強事例」

第2次診断の例

1階及び2階のX方向のIS値が0.6より小さく、耐震性能を満たしていないことが分かります。

(5) 構造耐震指標ISと地震被害との関係

一般的なマンションで採用される第2次診断で、構造耐震判断指標ISO=0.6の場合の構造耐震指標ISと地震被害との関連は以下のように想定されます。

構造耐震指標及び保有水平耐力に係る指標 構造耐力上主要な部分の地震に対する安全性
(一) ISが0.3未満の場合又は
qが0.5未満の場合
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。
(二) (一)および(三)以外の場合 地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性がある。
(三) ISが0.6以上の場合で、
かつ、qが1.0以上の場合
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が低い。

注1:
上記表は、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針(平成18年1月25日国土交通省告示第184号) 別添「建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項」の別表6として位置づけられている。

注2:
上記表中のq値は、各階の保有水平耐力に係る指標で、耐震診断基準における累積強度指標 CTU ×形状指標 SD との関係は以下の通りです。
q= CTU ×SD /(鉄筋コンクリート造:0.3、鉄骨造および鉄骨鉄筋コンクリート造:0.25または0.28)

注3:
上記表中における地震は、大規模地震を想定しています。

(6) 耐震診断の見積り

耐震診断の費用は、同一規模の建物でも、建物の状況、設計図書の有無、診断内容・方法により異なるため、 複数の設計事務所等から見積りをとり、診断依頼先を管理組合で検討することとなります。

11 耐震化の実施に向けて

耐震診断の総合評価によって、ISがISO未満であり、理事会として耐震化が必要と確認した場合には、 管理組合広報紙等で耐震診断の結果を報告し、耐震化の必要性について区分所有者の理解を得るための啓発活動を行い、 次の耐震化検討段階に進むこととなります。

なお、ISがISO以上であり、耐震化の必要がないとの結論の場合は、現状のまま継続使用ということになりますが、 老朽化等に伴う耐震化以外の修繕・改修が必要な場合もあり、 必要に応じて長期修繕計画の見直しを行います。

また、耐震診断や耐震改修の結果、ISがISO以上である場合は、 所管行政庁より地震に対する安全性が確保されている旨の認定を受けて「基準適合認定建築物」の表示をすることができます。

12 耐震性不足のマンションの敷地を売却する制度

「マンション建替え円滑化法」平成26年改正により、 <@マンション敷地売却制度及びA容積率の緩和特例が創設され、 マンションの建替えだけではなく、耐震性不足のマンションを除却(取り壊して更地にすること)して、 その敷地を売却する手続きについても整備されました。
(マンション建替法第102条、同法施行規則第49〜51条、平成26年国土交通省告示第1106号「(除却の必要性に係る認定(耐震性不足の認定)について」参照 )

耐震診断で耐震性不足と判定されたマンションは、その後、修繕・改修、建替えについての改善効果や所要費用等についての検討を行い、 建替えに要する各区分所有者の負担が過大となる場合、マンションを取り壊しその敷地を売却することも検討課題になります。

マンション敷地売却における「更地価格」は、近隣地域及びその周辺の土地利用状況、将来的な土地利用の予測等から、 不動産鑑定士が 1)開発法による価格、2)取引事例比較法による比準価格、3)収益還元法による収益価格などの根拠を示して決定します。

分配金は、敷地の「更地価格」から建物取壊し費用等を控除した額となります。 マンション敷地売却事業においては事業の性格上、マンション建替事業における清算金に関する規定(法84条〜88条)に相当する規定はありません。

修繕・改修、建替え、除却の各事業では耐震診断の判定結果が意思決定の重要な要因となります。そのために瑕疵のない厳格な診断と手続きが要求されています。


出典:
・国土交通省・持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会資料
 別紙4「共同住宅ストック再生のための技術の概要(耐震性)」
・国土交通省・「耐震診断マニュアル」
・国土交通省・「耐震性不足のマンションに係るマンション敷地売却ガイドライン」平成26年12月発行