1. 超高層マンションの管理

2. 超高層マンションの問題点

2005年3月6日(日)中野区勤労福祉会館にて
主催 特定非営利活動法人 マンション管理支援協議会
後援 中野区

 パネラー 村井 忠夫 氏 (財)マンション管理センター主席研究員 住宅評論家
矢野 克巳 氏 耐震総合安全機構副理事長
増田 大輔 氏 超高層マンション居住者(元理事長)
 コーディネーター  高橋 行信 マンションNPO 一級建築士

超高層マンションの管理をめぐる検討課題

-------(村井忠夫先生の問題提起より抜粋)

●超高層階に住む人は全体の1/4だけ建物が超高層でも「超高層でない住戸」に住む人が3/4を占める。

その違いを管理上どう考えるべきか。

●高層階と低層階の分譲価格差の意味をどう考えるか。

物件価格が高層階と低層階で10倍程度はざらに違うが、価格差の裏にある経済力の差にどう対応するか。

●居住階によるライフスタイルの違いはどう関係するか

経済条件の差に居住階による日常的な生活感覚の違いが重なる。ライフスタイルの違いは管理にどう関連するか。

●階層による居住世代の二極分化の懸念はないか

年数が経過しても居住者が変わらない高層階の高齢化と交替が目立つ低層階の若年化の二極分化の懸念は?

●超高層マンションは地域社会と共生できるか。

マンションが超高層なら超大規模になる。居住人口の多い集合住宅が地域社会と共生できる可能性は?

超高層マンションは大地震の時どうなるか

------(矢野克巳先生のお話より抜粋)

●上層階は揺れが激しい。上層階は地表深度より1ランク上の震度になる。

例えば15階建のマンションでは、1階が震度6弱の場合、2〜11階は震度6強。12階以上は震度7程度になる。

●家具等の転倒・落下が火災をまねく。超高層マンションでは、倒壊より、室内の激しい揺れによる家具等の転倒落下が心配。

家具を固定する場合も、戸建て住宅のそれとはレベルの違う対策を講じる必要がある。

大地震の火災は電気系統が過半数と言われる。家具の転倒落下が火災を引き起こす。

●非常時の管理体制を非常時は、消防車も救急車も期待できない、

役員の合意による非常措置対応(閉じ込められている人をドアを壊して助ける、

火災防止のために電気ブレーカーを切るのに各戸に入ってよいかなど)を想定して合意をとっておくべき。

3. 超高層マンションの管理を検証する


高橋 増田さん、まず共有スペースについてお話をお願いします。

増田 私のところは、築15年。3棟(1棟30階建、2棟14階建)、約410戸です。集会室は80名定員くらいの広さがあり、総会にもなんとか対応できています。その他にマルチルーム、トレーニングルーム、カラオケルームなどがあります。当初は住民だけの利用と想定していましたが、住民のお子さん向けの塾を開く人に貸したりなどもしています。

高橋 理事会はどうですか?

増田 うちのマンションは管理組合法人で、理事は14名、2年任期の半数交替になっています。管理会社がサポートしてくれますから、理事が入れ替わっても、なんとか継続性が確保されています。

村井 管理会社には、超高層マンション管理の経験があったのですか?

増田 初めての超高層だったそうですが、マンションと一緒に15年の経験を積んできたといったところですね。 管理員さんの役割は重要です。超高層マンションには、公開空地といって外部の方にも開放するスペースがあるのですが、近所の中学生がサッカーをやっていて、住民の小さい子が遊べないといった時に、まめに見回ってしっかり注意できる管理員さんは大事な存在です。

村井 超高層マンションでは高層階と低層階の分譲価格差は一桁違ってきます。現実には22倍違うというマンションも存在しています。経済条件が違えばライフスタイルも違います。それは住民間のコミュニケーションに影響しないでしょうか?

増田 そうですね。例えば、エレベータで住人の誰かと乗り合わせたとき、自分が5階を押して、誰かが25階を押したとします。階数勝負に負けたなと思うわけです(笑)。この感覚がかなりストレスになります。億単位で住戸を購入した超高層階の住民と下層の住民とでは、生活背景が違いますからあいさつはしても、それ以上のつきあいは控えているような感じもあります。 でも、管理費の平米単価は同じです。高さが違っても同じ広さなら、払っている管理費は同じですから、感情はまた複雑です。

高橋 増田さんは大規模修繕工事の時に理事長をなさっていますが、難しさはありましたか?

増田 3棟の中で、超高層の棟だけに御影石を使っていたり、エントランスにエアコンが効いているのです。どうしても工事仕様と費用が違ってしまいますが、積立金単価は同じなのです。他の2棟のエントランスを自動ドアにするなど、不公平感が大きな不満にならないように工夫する必要がありました。 理事会は月に一回ですが、下部組織の委員会を含めるとマンションの維持管理に本当に多くの時間がとられたとは思います。

高橋 増田さんのマンションの大規模修繕時の資料や配布物を見せてもらいましたが、周到な情報開示をされていると感じました。施工会社の計画書もかなりしっかりした提案だと思います。工事の際、積立金は足りましたか?

増田 分譲当初は、月額3,000円〜4,000円程度だったので、築5年目頃に積立金を戸当り1万円程度上乗せしました。その際に駐車場料金も値上げしています。これらを値上げしていたから築10年目の第1回の大規模修繕が賄えたのだと思います。

村井 超高層に限らず、マンションでは、修繕の記録や人の入れ替わりの把握などが必要です。超高層は住戸数も多く、基本的な仕事も大変ですが、増田さんのマンションはかなりしっかりやっていると思います。

高橋 超高層マンションでも音の問題があるようですが、矢野先生ご意見はありますか?

矢野 超高層を作るのに費用を削減する決め手は建物を軽くすることなのです。軽いと、音が出やすいし振動もしやすいわけです。お金優先になってしまうと、騒音問題も出てくると思います。

高橋 子どもの発育への影響を心配する専門家もいますが?

増田 広場で元気に遊んでいる子どもたちを見ているので不安は感じません。ただ超高層は、人数が多いので駐輪場がかなり広く、ここが防犯上問題になり防犯カメラを設置しました。 当マンションでは管理組合とは別に当マンションだけの自治会がありますが、防犯対策など自治体への要望は管理組合だけで行っても正式な陳情とは受け取ってくれません。

村井 管理組合という組織の位置づけが未だに中途半端だからなのです。 超高層マンションはへたをすると、地域から孤立してしまう危険があるのではないでしょうか。災害時などは、地域との連携ができなければどうしようもなくなります。自治会があるならば、防災対策や地域とのかかわりを考えることが一番大切な仕事になりますね。

矢野 災害では思いもよらないことが起こります。即、決断を迫られることがある。消防隊も来ない時、閉じ込められた人を助けるために、扉を壊さなくてはならない場合もあるでしょう。漏電を防ぐために住戸に入ってブレーカーを切る必要も出てきます。管理規約などで、緊急時の役員の権限を定めることなども重要だと思います。

増田 中越地震の際にうちも揺れたのですが、船酔いする感じがしました。スラブの揺れがおさまっても30分くらいは、二重床のフローリングが揺れていたように思います。

矢野 災害時にエレベーターは使えませんから、超高層マンションの避難経路は階段しかありません。また、非常電源、非常灯火装置は、通常の停電用であって、地震と重なるとギブアップです。住人は非常用設備のことを多少なりとも知る必要があります。

村井 増田さんのマンションは管理規約もオリジナルのものを作っていると伺いました。組織運営の方法、長期修繕計画、管理費など、ぜひこれからも情報を発進してほしいと思います。

高橋 本日はありがとうございました。