ハラスメント(9) 【抗告】(裁判管轄権)(MOTION ORDER) (2023 ONCAT 36)
【年度別目次】 (2021) (2022) (2023) (2024)
No. | 事件番号 | 件名 | 判決日 |
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(7) | 2023 ONCAT 9 | (7) 【抗告】弁護士資格剥奪の申立て・却下 | 2023年1月25日 |
(8) | 2023 ONCAT 10 | (8) 【抗告】弁護士資格剥奪の申立て・却下 | 2023年1月26日 |
(9) | 2023 ONCAT 36 | (9) 【抗告】訴えを却下(裁判管轄) | 2023年3月7日 |
(10) | 2023 ONCAT 37 | (10) 【判決】訴えを却下(通気口ベントダンパー) | 2023年3月10日 |
(11) | 2023 ONCAT 46 | (11) 【判決】事件記録提出請求棄却 | 2023年3月21日 |
(12) | 2023 ONCAT 48 | (12) 【抗告】双方の申立てを却下(裁判管轄) | 2023年3月22日 |
(13) | 2023 ONSC 3758 | (13) 【控訴審判決】控訴棄却 | 2023年6月26日 |
(14) | 2023 ONSC 3834 | (14) 【控訴審判決】言い渡しを延期 | 2023年6月27日 |
(15) | 2024 ONSC 4415 | (15) 【控訴審判決】控訴棄却 | 2024年8月8日 |
解説:(2023.04,20) | 【ハラスメント概論と判例 目次】 |
【抗告】(裁判管轄権) (MOTION ORDER) (2023 ONCAT 36)
CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNALDATE: March 7, 2023
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抗告に対する決定 (MOTION ORDER) (2023 ONCAT 48)
判決日: 2023年3月7日
事件番号: 2022-00473N
事件名: ラーマン 対 ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779), 2023 ONCAT 48
準拠法令: コンドミニアム裁判所実務規則第19条に基づく命令
裁判官: マリサ・ビクター(コンドミニアム裁判所判事)
原 告: アキブ・ラーマン/本人弁護
被 告: ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779)(”PSCC779”と略)
代理人 ビクター・イー(弁護士)
抗告申請日: 2023年1月31日、2023年2月10日
A. 事件の概要 (INTRODUCTION)
[1] これは、原告アキブ・ラーマン氏(Aqib Rahman) によって提出された訴え(application)を裁判所は却下
すべきとする被告ピール スタンダード コンドミニアム管理組合 779(”PSCC779”) によって提出さ
れた申立て(motion)である。PSCC 779 の申立ての根拠は、裁判所管轄権の欠如と既判力である。
代わりに、PSCC 779 は、CAT事件番号 2021ONCAT 13 の関連する控訴裁判所への上訴の
結果が出るまで、ラーマン氏からの訴えを保留するよう求めている。
[2] ラーマン氏はPSCC 779の区分所有者である。彼は、PSCC 779 の共用部の一部である駐車場で
誤解を招くとされる駐車標識に関する紛争に関連して、コンドミニアム裁判所(CAT) に提訴した。
[3] PSCC 779 は、紛らわしい駐車標識に関するラーマン氏の苦情(complaints)に対して CATは
裁判を行う管轄権を持たないと主張している。代わりに、PSCC 779 は、ラーマン氏が2021年の
ONCAT 13で行ったのと同じ苦情を申し立てていると述べている(「前のケース」)。[*1]
[*1] Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2021 ONCAT 13 (CanLII)
PSCC 779 は、既判力が適用されると主張する。CAT はこれらの苦情を 「一時不再理の既判力」
("res judicata applies")(*8 訳注)に基づいて再審理(re-hear)することはできない。
(*8 訳注:既判力とは先行する裁判の内容が後行する裁判における判断内容を拘束するという
制度的効力の原則で、res judicata applies はラテン語に由来する、Res「問題」、judicata「判断された」
applies「訴訟」を意味します。担保禁反言(collateral estoppel)と並ぶ資源と時間の無駄を省く制度です。
最後に、PSCC 779 は、前の事件は控訴裁判所に上訴されており、CAT がこの事件を審理する
管轄権を持っている場合、CAT は控訴裁判所が判決を下すまで審理を待つべきであると主張する。
[4] 以下の理由により、被告は CAT がこの事件を審理する管轄権を持たないことを示したことを
裁判官は認める。既判力または審理保留の必要性(res judicata or the need for a stay.)に
関する別の議論を考慮する必要はない。
裁判管轄権の欠如に基づいて、裁判官はこの申立てを認め、この訴えを却下する。
B 主張と分析(SUBMISSIONS & ANALYSIS)
偏見の背景と主張(Background and Allegations of Bias)
[5] 本申立て審理される前に、ラーマン氏は被告の代理人弁護士を失格とする申立てを提出した。
(【弁護士資格剥奪の申立て】)[*2]。
裁判官はその申立てを棄却した。
[6] ラーマン氏はその決定に不満を持っていた。その後、ラーマン氏は CAT-ODR メッセージング システムを
使用して、その決定に対する不満を表明した。[*3]
彼が投稿したメッセージは、裁判官の公平性にも疑問を投げかけた。ラーマン氏はまた、コンドミニアム
裁判所(CAT)を訴えるつもりであることを示した。
[7] 裁判官は ラーマン氏に、主張内容を書証として CAT-ODR にアップロードする必要があることを伝えた。[*4]
掲示板にメッセージを投稿することは訴状書証ではないことを両当事者に伝えた。裁判官はラーマン氏に、
申立てに関する彼の主張とともに、偏見の弁証(allegations of bias,)がされている事にも対応するよう求めた。
偏見の合理的な懸念(a reasonable apprehension of bias)の問題については、裁判官はラーマン氏に法的に
必要な検証内容についても助言をした。
[8] ラーマン氏が書証としてアップロードした唯一の文書は、オンタリオ州コンドミニアム庁および CAT に対する
彼のオンタリオ州控訴裁判所への訴状 (Statement of Claim) であった。[*5]
[9] 裁判所からの明確な指示といくつかの機会を与えられたにもかかわらず、ラーマン氏は偏見の問題に関連する
書証を最終的に提出しなかった。彼は実際には、あたかも裁判官に従う事を拒否するかのように、この件で
は特別の救済を求めなかった。書証の提出が締め切られた後も、ラーマン氏は裁判官の公平性に疑問を
呈するメッセージを掲示板に投稿し続けた。繰り返しになるが、これらのメッセージは同様に広範な一般的な
苦情であり、特定の救済を求めるものでもない。裁判官はこれらの投稿を訴状書証と見なすことはできない。
【原注】
[*2] Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2023 ONCAT 10 (CanLII)
[*3] At the CAT, parties are able to communicate with the Member by posting messages
on a message board that is part of the CAT on-line dispute resolution system (“CAT-ODR”)
(訳) コンドミニアム裁判所のオンライン紛争解決システム(CAT-ODR)では、当事者は裁判所の
オンライン掲示板へ投稿して裁判所への手続きと連絡を取ることができる。
[*4] Mr. Rahman has demonstrated that he was able to upload a notice of motion, factum,
book of authorities and book of documents to the CAT-ODR as part of the Motion to Disqualify.
(訳) ラーマン氏は申立て手続きに関するコンドミニアム庁の注意文書をアップロードする能力がある
ことを証明していた。
[*5] CV-23-00000416-00SP, 訴状提出日(filed) February 3, 2023
[10] 裁判官は、偏見の合理的な懸念についての法的な検証とともに、本件に関する訴状内容の欠如を検討
した。裁判官は、原告が裁判所に対し偏見の合理的な懸念を提起していないことを認める。 また、
原告自身にも偏見の合理的な懸念を提起する理由がないことも認める。
従って、この問題については裁判官が判断すべき争点は存在しない。
[11] 従って、裁判官が判断すべき唯一の争点は、当法廷が原告の訴えを審理する裁判権を有するか否か
である。
裁判管轄権 (Jurisdiction)
[12] PSCC 779 は、CAT にはこの訴えを審理する権限がないと主張している。
[13] PSCC 779 の主張は、CAT 実務規則の規則 19.1(c) に基づいている。その規則は、CAT の権限について
「事件が CAT が審理する法的権限を持たない問題に関するものである場合」に申請を却下できると規定
している。
[14] PSCC 779の反論は、「請求の趣旨」(Problem Description)と呼ばれる、訴えの内容に関する原告の
訴状に基づいている。
その問題の説明の中で、ラーマン氏は、決定されるべき問題は「理事会と管理者が当局を欺くために誤解
を招く標識を不正に使用していること」であると主張している。ラーマン氏は、PSCC 779 管理組合の管理
規約(By-Law)で、良好な状態にある共用部の規定、特に条項 4.1(a) および (e) を引用している。
ラーマン氏は コンドミニアム裁判所(CAT)が、PSCC 779管理組合に対し、駐車標識の修正を命ずる判決
を出すよう求めている。
[15] PSCC 779 は、この裁判における争点は、ラーマン氏が定義するようなものではなく、保守と修理の問題で
あると主張している。さらに、ラーマン氏が依拠する付則 1 の条項は、CAT の管轄下にない共用部の制御、
管理、修理、復元に言及している。最後に、PSCC 779 は、CAT には保守と修理の問題に介入する権限は
なく、駐車標識は保守と修理の問題であると主張する。
[16] PSCC 779 はまた、駐車に関する CAT の裁判管轄権は、駐車を禁止、制限、または管理する規定に
関する紛争に限定されると主張している。[*6]
PSCC 779 は、宣言書の第 4.2(a) 条と第 4.2(b) 条が、来客用駐車場と身障者用駐車場に関して
「はっきりと見える標識」に言及していると主張する。しかし、PSCC 779 は、本件紛争を CAT の裁判
管轄内で裁くにはこれでは不十分であると主張する。[*7]
PSCC 799 は、CAT に駐車に関する裁判管轄権を付与する規則のセクション 1(1)(d)(iii) は、駐車標識の
物理的な配置にまで管轄権を拡張していないと主張する。
[17] ラーマン氏は、CAT の裁判管轄には駐車紛争も含まれており、駐車標識はその管理上の問題であると
主張する。ラーマン氏は、CAT の権限、権利と自由の憲章との関係、消費者保護権に関連する権限、
および損害賠償に関する宣告的判決(declaratory judgment)を求める訴状(Statement of Claim)を
提出した。訴状には、駐車場や駐車標識については言及されていない。
【原注】
[*6] Section 1(1)(d)(iii) of O. Reg. 179/17 (the Regulation) pursuant to the Condominium Act, 1998, S.O. 1998, c. 19
[*7] PSCC 779 relies on the following CAT cases: (PSCC 779管理組合の主張は下記の判決に依拠している。)
Sidhu v. Peel Condominium Corporation, 2022 ONCAT 112 (CanLII),
Naderi v. Toronto Standard Condominium Corporation No. 2763, 2021 ONCAT 51,
Smith v. Toronto Standard Condominium Corporation No. 1, 2021 ONCAT 64,
JRS Productions Inc. et al. v. Metropolitan Toronto Condominium Corporation No. 98, 2022 ONCAT 93,
Friedlander v. York Condominium Corporation No. 427, 2022 ONCAT 110
分析 (Analysis)
[18] 訴状、関連文書、および両当事者の書証を検討した結果、CAT にはこの紛争を決定する法的権限が
ないと判断する。
[19] CAT の裁判管轄は限られている。駐車に関する CAT の裁判管轄権は、規則のセクション 1(1)(d)(iii)
に規定されている。
CAT は、駐車場を禁止、制限、または管理するコンドミニアム管理組合の管理文書 (宣言書、規約、
または細則) の条項に関連する紛争について管轄権を持っていると述べている。
CAT は、駐車場に言及したり、駐車場に関連するだけの紛争について管轄権を持っていない。
[20] 本件は規則のコミュニケーションに関する紛争である。ラーマン氏の不満は、駐車場の標識が
分かりにくい、もっと明確にしてほしいというものである。駐車標識は、駐車に関する規則を伝えて
いるが、この場合は不十分かもしれない。しかし、駐車標識が紛らわしいという苦情は、駐車を
管理する管理文書内の条項に関する紛争ではない。
駐車標識を変更、修正、削除しても、駐車を管理する規則の変更にはならない。
[21] 被告はいくつかの他の判例を引用しているが、本件はこの判例事件とは十分に類似していない。
従って、裁判官は、最終的に、被告が挙げているどの判例事件にも依拠しない。
[22] 裁判官はまた、ラーマン氏が争点の説明を保守と修理の問題として特徴付けたという点で、その
説明には納得できない。原告が問題の説明にマンション管理組合の管理文書の保守および修理
条項を参照または依拠するかどうかの選択は、必ずしも裁判管轄権を決定づけるものではない。
[23] ラーマン氏は、駐車標識に関する彼の懸念が、駐車を禁止、制限、またはその他の方法で
管理するコンドミニアム管理組合の管理文書から生じる紛争であることを示していない。
本件は駐車規則の伝え方についての紛争である。
原告は、この紛争が駐車を禁止、制限、または管理する条項に関連していることを証明できなかった。
そのため、CAT にはこの訴えを審理する裁判権限はない。