日本とカナダの判例比較:紛争の解決に向けて
まえがき
カナダの判例3. 「訴訟費用の監査請求」と、
日本 の判例4. 「理事長解任に関する最高裁判決」 (最高裁)
日本 の判例5. 「区分所有法25条2項による理事長解任請求訴訟」 (東京高裁)
を比較しながら、コンドミニアム紛争固有の問題について述べています。
上記裁判の
共通点:コンドミニアムのコミュニティ紛争に固有の問題
すでに一審、二審で争われていて、三回目の裁判でも紛争そのものは解決しなかった。
相違点:紛争処理方法と審理の効率性
1.裁判制度: (日本)対審原則・口頭弁論主義の伝統的制度
(カナダ・CAT)電子書面主義によるオンライン紛争解決システム
2.裁判の迅速化:(日本)判例4.高裁判決から最高裁判決まで1年2ケ月
(日本)判例5.理事長解任請求訴訟(4年2ケ月)〜弁護士報酬負担訴訟(2年)
(カナダ・CAT)原則、提訴から3ケ月で結審する
1.カナダのCAT判決事例
カナダの裁判所の体系カナダの裁判所制度(Court System)
連邦政府が管轄するのは、最高裁判所、連邦控訴裁判所、連邦裁判所、租税裁判所、連邦行政裁判所、高等軍法会議、軍法会議です。 最高裁判所は1949年以降、カナダの最終審となっています。(それ以前は、英国ロンドンの枢密院法務委員会が最終審)。 首相の助言に基づき総督が9名の判事を任命しますが、最低3名はケベック州出身でなくてはならない決まりがあります。 最高裁判所は、連邦控訴裁判所のみならず、州控訴裁判所、高等軍法会議の判決を審理します。 また、憲法判断も重要な機能の一つです。連邦政府からの要請に応じて、さまざまな法的問題に関する見解を出すこともありますが、 高度に政治的な案件の場合は判断を避けることもあります。 連邦控訴裁判所は、連邦裁判所と租税裁判所の判決を審理する上級審です。
連邦裁判所は、連邦法に関わる事案を審理します。
たとえば、連邦政府と州政府の間の訴訟、州政府間の訴訟、知的所有権、海事、公正取引、市民権に関わる訴訟などを扱います。
各州には、州控訴裁判所を頂点に、州高等裁判所(州により名称が異なる)、州裁判所、州行政裁判所があります。 州控訴裁判所と州高等裁判所の判事は、連邦政府が任命し、給与も支払っています。州控訴裁判所は各州の最終審です。 州高等裁判所では、重大犯罪、多額の金額が絡んだ民事訴訟、離婚に関する訴訟などを含む、ほとんどの案件を審理します。
州裁判所の判事は州政府が任命し、給与を支払っています。通常犯罪、青少年犯罪、
少額の金額が絡んだ訴訟、家庭問題に関する訴訟(離婚を除く)などを担当します。
カナダはオーストラリア、ニュージーランドと同様、英連邦立憲君主制国家で君主は2022年9月8日、エリザベス2世からチャールズ3世に代わりました。(※1) 君主の代理(事実上のカナダの元首)をカナダ総督が務め、カナダ軍の名目上の最高司令官 (Commander-in-Chief) を兼ねます。 カナダは10の州(province)と3の準州(territory)があり、 各州に大幅な自治権が委託され、それぞれの州に首相、内閣及び議会があります。 議会は上下院の二院制ですが、上院には選挙がなく上院議員は首相の助言により総督が君主(王権(sovereign)が男性ならKing、女性ならQueen) の名で任命します。 「女王の椅子(Queen's Bench)」は「高等裁判所」の別名
(※1)
現在の英連邦君主は、チャールズ3世(King Charles V 全名チャールズ・フィリップ・アーサー・ジョージ Charles Phillp Arthur George ) 2022年9月8日即位(73歳) カナダドルやオーストラリアドル紙幣のエリザベス女王の肖像、 そして裁判所等の国家機関の名称に用いられてきた[Queen's]を[King's]に代える事は各国で調整中で、時間がかかります。 |
1.1 繰り返された訴訟
カナダの判例3では、原告の区分所有者は被告の同コンドミニアム管理組合に対し、一審の小額裁判所(図の州裁判所に係属) 、更に二審の州高等裁判所で争ってきた。
そして、コンドミニアム紛争専門裁定機関としてCAT(州行政裁判所)が2017年11月1日に運用開始すると同時にその最初の裁判として、 一審の小額裁判所費用の請求書、並びに二審の高等裁判所費用の請求書の写しを原告に提出するよう求めてCATに提訴した。
参考
英語のクレーム(Claim)は「権利として要求する」という意味で日本語のクレームの意味はありません。 日本語の「クレームをつける」は、「コンプレインツ(complaint)=苦情の申し立て」「make a complaint about〜」を使う。 a complaints box 苦情投書箱 コンドミニアム法1998の1 (1) 「用語の定義と解釈」でクレームは下記の通り定義されています。
|
1.2 紛争が解決されなかった原因
(1)訴えの請求事項と紛争原因には直接の関連性がないケース
カナダの判例3の判決で「本裁判では原告が情報提供を求めて提訴した裏にある動機の解明には焦点が当てられなかった。」 として原告が本裁判を通じて本当に解決したかったことを明らかにしなかったことを述べている(段落「33」)。 原告が求めていないことについて裁判官は審判できない。
民事訴訟の手続きは原告の訴えによって主張された特定の対象につき、 裁判所の関与の下に原告被告両当事者が攻撃防御を尽す審理を経て裁判所の判決で結審する。 裁判所は当事者が申し立てた事項についてのみ審判できるのであって、 その審判対象としての訴訟上の請求事項の特定は原告の権限であると同時に責任でもある。
被告にとっても、審判対象が特定されないか、又は請求事項を審理途中で変更されると、 不意打ちの危険にさらされて攻撃防御の当事者権の保障を失うから、訴え提起の当初から、 請求事項を明確にすることが手続き上重要な原則になっている。
判決書から見えてくる審理の背景
しかしながら、当事者間における争点には形式的に争っている争点と実質的に争っている争点があるが、
その違いを表現することは裁判では予定されていない。さらに主要事実を支える間接事実については、
重要な間接事実であっても、原則として事実欄には記載されないため、
当事者が主として重要な間接事実のレベルで争っていた場合は、そのこと自体は判決書には現れない。
また、当事者の主張が真っ向から対立していて全くの平行線をたどっている事件や、
当事者が争点整理に協力しないために中心的な争点の形成ができないままで終わった事件など、
審理の内容が争点中心型とはいえない結果に終わった事件では紛争解決には程遠い結果となる。
日本でも、当事者の準備書面の表現をそのまま写し、 コピーアンドペーストを多用したと思われる長文の判決にこのような審理の背景を窺うことができる。
(2)訴えの利益は何か?
この事例で訴えの正当な利益ないし必要性の根拠として原告は 段落[13]で組合員として正当な監査行使権があることを述べた上で、 「今回の提訴を通じて、管理組合情報の透明性についての先例をコンドミニアムコミュニティ全体に課すことを望む」と述べた。
一方で、被告管理組合側は、訴訟マニアともいうべき原告の執拗な追求に悩まされてきた(段落[16]及び[47])。 原告はただ単に世間から相手にされたかっただけなのでは?と思わされる。 だが、裁判官はそのような見方をする被告に対して証拠もなく決め付けるなと戒めている(段落[33])。
(3)今後の展開予想
原告は、監査請求権を行使し会計証憑としての裁判関係請求書のセットを入手した。 裁判で、被告管理組合側が弁護士の時給225ドル(≒19,125円)で計算した費用(段落[41])について、 裁判官は、本件には弁護士として要求されるレベルは必要がない、 時給130ドル(≒11,050円)の実務研修生レベルで十分だとして減額査定した。(段落[44])。 被告は原告に対し裁判にかかった費用10,619.29ドル(≒90万2,640円)の弁償を求めた(段落[46])が、 裁判官は認めなかった(段落[50])。
・・・ということは、「管理組合が弁護士の請求通りに支払ってきた額は過大であった」ということになるのでは、 という懸念も出てきます。次の訴訟の対象にならなければいいのですが。
日本でも同様の裁判例があります。
判例5「区分所有法25条2項による理事長解任請求訴訟」
2.日本の最高裁判決の事例
【判例4.理事長解任に関する最高裁判決】の概要
平成26年8月開催の管理組合総会に対する決議無効の訴えに関し、平成28年3月一審福岡地裁、 平成28年10月4日二審福岡高裁、平成29年12月18日最高裁判決「破棄差戻」と3年余をかけて最高裁まで争った事例です。
(1) 平成26年8月開催の管理組合総会に対する決議無効の訴えは3年余にわたる裁判を経て
平成29年12月18日最高裁判決で法の条文解釈が示されましたが、結局のところ、この裁判で、
(1)救済された者は誰もいない。
(2)最高裁でも紛争は解決されない。
という結果になりました。
最高裁は法の起草者が意図していなかった管理者の解雇に関する条項がないという法の欠缺(けんけつ)を補うための判断基準を、 最高裁判決という形で示したという意味ではその責任を果たしたといえます。
しかし、この訴訟事案の本来の主題は「管理会社の変更についての理事会内部の紛争」であり、解決すべき裁判の主題は、 その理事会内部での合意形成について、その目的及び手段が公平かつ合理的で適性なものであったかを第三者として公平に見極め、 紛争解決に導くのが審判者としての紛争解決の目的から期待される本来の役目であったはずです。 しかし、訴えの請求事項は本来の紛争原因から乖離していたから、そのことについては審判のしようがない。
最高裁は法律審であって事実審ではないという立場上の制約から審理を原審に差し戻しました。
3.紛争の解決手段
今回のCAT判例シリーズの(1)と(2)で、紛争が解決された例を見てきました。
この(1)と(2)の判例は、提訴準備段階からCATのオンライン紛争解決制度を利用していた例です。
紛争が解決されなかった判例(3)は、紛争が他の従来の裁判制度のもとで先訴があり、
その後訴の裁判でした。
判例(1)のあとがきでも解説していますが、裁判に不慣れな一般市民が紛争解決を求めて提訴しようとしたとき、 適切な助言者やファッシリテ-ターがいないと紛争は解決するどころか、逆に泥沼にはまってしまいます。 紛争解決を求めて提訴したはずが請求事項を誤ったために、裁判のための裁判になったのが判例(3)と(4)の事例です。
コンドミニアム裁判所実務規則では「運用指針」を下記のように示しています。
CATは下記の指針にそって運営されています。
・ 当事者を主体に考え
・公平で適正な紛争解決方法であって、
・ コンドミニアムの健全なコミュニティを促進すること
この運用指針に沿った適切な助言と支援が得られれば、コンドミニアム内の大方の紛争は解決します。 コンドミニアム裁判所(トリビュナル)はそのために作られた専門機関です。
日本の最高裁判決の例も、問題点と解決の仕方は誰もがわかっていて、 実際にはそれが可能な紛争解決の裁判体系にはなっていないところに原因があります。
紛争処理と争訴処理の違い
従来、紛争解決という概念は民事訴訟の目的論として用いられてきましたが、 実際には裁判は「紛争解決」というよりは紛争の緩和ないし変形であって、 裁判法第3条1項で「裁判所は一切の争訴を裁判し」とあるように、 「争訴処理」であって、紛争の調整ないし処理と表現するほうが適当だとする指摘もあります。
制度的にはどうあれ、判決によって紛争が常に最終的に解決されるとは限らない。 実質的には確定判決によっても当事者間の紛争は解決されないことが多い。 むしろ、和解等の合意による処理のほうが紛争の解決に結びつくことが多い。
大多数の紛争は、紛争当事者間の合意による自律的な処理で解決したほうが、 結果的にも極めて望ましい処理方法であって、そのために紛争が司法機関に持ち込まれた場合でも、 紛争当事者間の合意による自律的な処理を当事者主義で行うよう支援助成する手続きが準備されてきました。
当事者主義と裁判外紛争処理(ADR)
米国の民事事件における当事者主義(adversary system)の実態は、
審判(Traial・トライアル)以前の段階においては、手続の進行は原則として当事者に任され、
裁判官は、手続遂行に当たり当事者間でトラブルが生じた場合に、
異議の申立ての判断等を通じて関与するにすぎません。
本稿で紹介したカナダのCAT実務規則の第一段階でも同じくこの当事者主義を採用しています。
これを当事者協議に不慣れな一般市民をもっと適切に支援する目的で開発されたのが裁判外紛争処理(ADR: alternative dispute resolution)です。
(注):米国市場を通じて海外投資するADR(American Depositary Receipt:米国預託証券)とは違います。
公共紛争解決におけるADRの手法(Assisted Negotiation)
米国などでも公共工事の計画・事業実施にあたっては地域住民や関係者間の利害の調整が困難な事や技術的な知識の差などから、 当事者のみでは解決が難しく、紛争に至る事例が後を絶たなかったことから、 利害関係のない中立的な立場にある者が間に入って、 当事者間の話し合いを支援するAssisted Negotiationという手法が定着してきました。 具体的には下記の手法があります。
@ Mediation(調停)
Mediatorが中立的な立場で調停案を提示し、当事者間の合意を導く。
A Facilitation(ファッシリテーション)
Facilitatorが利害関係者の話し合いを設定し、中立的な立場で当事者達の議論を促進(ファッシリテーション)しながら、
当事者間の自主的な紛争解決プロセスに導く。
B Consensus Building(合意形成)
中立的な専門家のもとで公開討論会を開催し、関係者間での受諾可能な合意形成を導くプロセス。
紛争発生前から導入し、当事者間の根底にある潜在的な利害対立を明らかにして調整するプロセス。
C Partnering(共同)
プロジェクトが実行に入った段階で、実行期間中のすべての利害関係者を対象にした定期的なミーティングで、
期限内の完成と訴訟回避を図るプロセス。
裁判外紛争処理(ADR)の手続き
米国で訴訟遅延の改善、訴訟費用の軽減、当事者の満足、裁判所の事件負担の軽減等を目的として、 1998年10月、連邦ADR法が成立しました。この法律により、 すべての民事訴訟事件においてADRが利用できるような規則を各裁判所において規定し、 その実施のための体制を整えなければならないこと、 原則としてすべての民事事件の当事者に対してADRの利用を検討するよう命じなければならないこと等が定められました。
ADRは、訴訟手続以外の紛争処理手続の総称ですが、その主なものは次のとおりです。
1.仲裁(arbitration)
2.調停(mediation)
3.早期中立者評価(early neutral evaluation)
4.略式陪審裁判(summary jury trial)
5.ミニトライアル(mini trial)
カナダのCAT実務規則の第二段階でもこのADRの手続きが取り入れられています。
コンドミニアムの区分所有者と管理組合の間の紛争には、
当事者同士が同じコミュニティ内で暮らし続ける関係であることに特別の配慮が必要です。
コンドミニアム裁判の最終目的は、
「コンドミニアムの健全なコミュニティを促進すること」(CAT運用指針)でなければなりません。
従来の司法制度にはこのような観点はありません。
訴訟の非訴化と限界
訴訟の非訴手続きを強制的処理で行う傾向が近年、顕著になってきました。 本シリーズの第一回目、判例(1)のまえがきでも説明したように、 日本では民事裁判を経験した人の7割以上が日本の裁判制度に失望し、 二度とやりたくないと答えています。日本の民事裁判でも、判決まで進むのは3割前後で、 一審の提訴事件の殆どが半ば強制的な調停で終局しています。
訴訟は、公開・対審・判決という当事者権が保障された手続き構造によるため、時間と費用がかかるのに対し、 非訴は非公開・審問・決定という手続き構造の下で裁判所の裁量によって簡易・迅速化が進められる一方で、 関係人の利害の対立が激化する紛争や本来の訴訟でおこなうべき権利義務の存否にまで、 非訴による強制的和解を迫られると、関係人を納得させる結果は到底生まれず、不満だけが残ります。
訴訟の非訴化には限界があるという前提を踏まえて、実際に権利義務の存否を判断する局面において、
カナダのCATが非訟事件としてではなく、公開裁判で、どのような判断を下しているのかについての実例を下記にご紹介しておきます。
判例7. 理事の資格喪失をめぐって 参照
4.紛争解決制度
項目 | 相談・助言 | 斡 旋 | 調 停 | 仲 裁 | 裁判 (※1) |
利害関係人の参加の同意 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 | 不要 |
第三者が解決案を提示 | しない | しない | 調停案 | 仲裁判断 | 判決 |
解決案を拒否できるか | ー | ー | 可 | 不可 | 不可 |
解決案の法的効力 | ー | ー | ない | 強制力あり | 強制力あり |
解決案の抗告・控訴 | ー | ー | ー | 不可 | 可 |
尋問・手続・解決案の公開 | 非公開 | 非公開 | 非公開 | 非公開 | 公開される |
(※1)人事訴訟を除く
T.明確に紛争処理を目的としないが、結果として紛争処理を含むもの
「相談・助言」
「相談・助言 ないし苦情処理」は、元来それ自体完結した紛争処理制度ではなく、
紛争の予防ないし紛争処理の準備のためのものであるが、相談を受けた機関の影響力が大きい場合は、
その機関が紛争の相手方や関係官庁と交渉することで紛争処理を結果することも多い。
相談の中に事実上は斡旋や調停を含んでいる場合がある。
U.明確に紛争処理を目的とするもの
(1) 斡旋(助言型紛争処理)
斡旋手続は、強制的に紛争処理を行うものではなく、
当事者が合意によって自主的に紛争処理の意思決定を行よう、双方の主張の要点を確かめ、
事件が公正に解決されるように当事者間を斡旋する。斡旋では解決案の提示は義務ではないが、
機関によっては斡旋においても解決案を提示するところもある。
(2) 調停(調整型紛争処理)
第三者(調停人)の仲介によって解決案(調停案)が作成・提示され、これに当事者が同意すれば解決となる。
もし調停案が気に入らなければ、これを拒否することもできる。
「あっせん」と「調停」は、手続に関与する第三者が積極的に解決案を提示するかどうかで区別される。
(管理組合における即決和解や調停の手続きの具体例は 「滞納対策の実務」ー 「4. 訴訟の種類と方法」の中で、 [(3)即決和解 (4)民事調停] に詳しい説明があります。)
(3) 仲裁(裁定型紛争処理)
仲裁法(平成16.3.1施行)における「仲裁合意」とは、既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係
(契約に基づくものであるかどうかは問わない)に関する民事上の紛争の全部又は一部の解決を一人又は二人以上の仲裁人にゆだね、
かつ、その判断(仲裁判断)に服する旨の合意を言う(仲裁法第2条(定義))。
仲裁を申請するには仲裁合意が必要です。ただし、仲裁合意を行うと、対象となった紛争については裁判を受けられなくなります。 また、仲裁判断に不服を申し立てることはできません。
仲裁合意は当事者が和解をすることができる民事上の紛争を対象とする場合に限り、その効力を有し、 仲裁人の提示した解決案(仲裁判断書)を相手に強制することができる(同第13条)。 仲裁合意を行った後は、仲裁合意の対象となる民事上の紛争についての訴えは提起できない。(同第14条)。 また、仲裁には上訴に相当する制度がなく、仲裁判断に不服を申し立てることはできない。 但し、事業者が仲裁手続きの申立人である場合、 消費者は消費者仲裁合意を解除することができる。(同法特例第3条)。
なお、日本では管理組合は事業者と対等の事業者とみなされ消費者保護法の対象とはなっていない。 カナダでは管理組合は消費者とみなされ消費者保護の対象とされている。
5.機関別紛争解決制度
民間型 |
弁護士会、消費者団体、業界団体などが運営するもの(例:弁護士会仲裁センター)
|
行政裁判所(CAT) |
(1) カナダ・オンタリオ州では、コンドミニアム法(Condominium Act)を公共政策フォーラム(The Public Policy Forum)という非営利のシンクタンクが中心となって、 政府・産業界・司法機関のメンバーで6分野の分科会(それぞれにワーキンググループと専門家パネルを設けた)で討論し、 全体作業で政策(法案)を提言したものを州消費者庁長官が議会に法案提出、 州議会で法案を審議、制定、施行。その法律の中に監督官庁(コンドミニアム庁)とCATの法的根拠と全コンドミニアムの登録・ファンドの徴収等を規定、 独立した活動財政基盤を確保し、時代に即したコンドミニアム紛争の解決機関としてのオンライン行政裁判所(CAT)の制度を作りあげてきました。 (2) カナダの仲裁法(Arbitration Act, 1991)は日本の仲裁法(2004年)より古く、 婚姻契約、離婚協定などの家族法や自動車事故の補償(医療費、休業補償、仲裁人によるER記録の医学的証拠の裁定)などが主なものです。 コンドミニアム紛争解決方法としては仲裁法を適用せずに、 和解・調停から判決までの一貫した独自のCATシステムを新たに作り上げました。 カナダのオンライン紛争解決システム(CAT-ODR)の6段階の紛争解決プロセス
詳細は 裁判所実務規則 参照 |
2018.12.14 掲載