マンションの再生 給排水設備を中心に

2007年6月10日 中野区勤労福祉会館3F マンションライフフォーラム「もっともっと住みやすく」

1.給排水設備の改修

築後30年近いマンションは、もうめずらしくありません。
マンションは何年くらいもたせることができるのでしょうか?住みやすさはキープできるのでしょうか?
今年のマンションライフフォーラムでは、給排水設備の改修にポイントをしぼり、 管理組合のレポートと専門家の見解から維持管理を考えました。

[Q] あなたは、ご自分のマンションを何年くらいもたせたいですか?

参加者アンケートで「マンションを何年くらいもたせたいですか」と聞いたところ、 築後50 年以上もたせるのは当然で、70年、100年と、さらにもっと長くと思う方がほとんどでした。
また、その理由については、「ずっと住み続けたいから」が圧倒的に多く、「次世代に引き継ぐ」、 「建替えが困難なため」という理由も上げられていました。

とすれば、そのためにやるべきことは、何でしょうか?
村井忠夫さんの問題提起から振り返りたいと思います。

第1部 問題提起

<マンション管理評論家 村井忠夫さんの講演から>

暮らしの快適さを支えている設備をどのくらい知っていますか? ぜひ、設備の再確認をしましょう。
日常生活では、水道の蛇口をひねって水が出てくればそれでいいのですから、どこからどうやって流れているのかなど考える必要は何もありません。
しかし、ひとたび水が出なくなったとしたら、生活への影響は計り知れません。電気、ガスなども同様です。 快適なマンションライフなど吹っ飛んでしまいます。
私たちは、快適な生活を支える設備について、もっと知らなければならないと思います。

そして、設備関係の工事は、日常生活に大きな影響をおよぼしますから、管理組合は、 居住者の生活実態を全く知らないというわけにはいきません。また、修繕履歴の把握なども必要です。

●設備の再確認のポイント

@建物の全体像と設備の再確認
□管理規約の内容確認(共用部分と専有部分の区別)
□実際にできる限り設備を確かめてみる
□認識できたことは広報する

A居住者の実態を知る
□居住者の生活実態の把握
□居住者に合わせた工事計画の作成
□具体的な情報を提供する(広報)

B設備の現状を把握する
□購入したときのパンフレットなどの確認
□過去の修繕記録の整理と確認
□専有部分室内リフォーム工事の実態の確認

2. 改修を実施した管理組合からの報告


@専有部分までの工事をするには、日頃の信頼関係が重要だと感じました

<ハイツ武蔵小山管理組合 理事長 長岡進さん>


<工事内容(一部抜粋)>
1978年竣工 鉄筋コンクリート造 10階建 29戸
@改善、改良のための工事
・エントランス改修(段差解消、駐輪場タイヤ止め設置)
・アルミサッシ補修(一部)、避難ばしご等の設置
・EV内部改修、共用廊下改修
A設備に関する工事
・給水システムを増圧直結方式に変更(受水槽・高架水槽の撤去、増圧ポンプの設置)
・専有部分給水管改修、各戸給湯管の更新工事、 排水管補修工事

1回目の大規模修繕の際には、十分な蓄えもなく、一戸あたり100万円近い一時金を集めました。
その反省から、管理費の節減分を積立金に回したり、修繕積立金の値上げをしてきました。

専有部分を含めた設備の改修は、長期修繕計画の中に、検討事項として入れていましたので、
工事費用の見当はついていました。

実行に踏み切ったのは、漏水事故が多発してきたからです。
理事や修繕委員だけでなく、誰もが待ったなしだと思っていました。

しかし、問題は、賃借入居者が半数近いことでした。
区分所有者には高齢者が多く、平日も自宅にいますが、賃借入居者はほとんどが勤め人で、 平日の在宅が難しい場合が多かったのです。

工事日の調整が大変でした。
住人の代わりに、修繕委員が鍵をあけ、立ち会うことも多々ありました。
専有部分まで行う工事は、管理組合への信頼がなくては、難しかったと思います。

また、私たちのマンションには高齢者が多いので、エントランス奥にあった段差をなくせたのは、大変うれしいですね。


A長期修繕計画を軸に、専門家に相談しながら修繕に取り組んでいます

<グリーンコーポ大倉山管理組合修繕委員 木村和男さん>


<工事内容>
1979年竣工 鉄筋コンクリート造 7階建 4棟 312戸
・専有部分の給水管・給湯管をすべて樹脂製の新しい管に交換
・給水方式を増圧直結方式に変更
(受水槽とポンプ室を撤去、コンパクトな増圧ポンプを設置)
・受水槽の跡地を駐輪場、駐車場に (変電室の撤去も検討中)

2007年7月から来年4月の予定で、専有部分を含めた給水給湯設備の改修工事を実施します。
先日の臨時総会で約1億3000万円、一戸あたり43万7500円相当の工事が承認されました。
(修繕積立金の30か月分)

総会では、専有部分まで工事すること自体は、満場一致の賛成でしたが、一部露出配管になる箇所があるため、配管類はどう納まり、どのような体裁になるのかという点は相当な関心がよせられました。

専有部分までの設備工事は、突然でてきた話ではありません。
4年前に行った大規模修繕の際に十分検討し、諸事情のため見送った項目だったのです。
長期修繕計画には、将来ぜひやっておきたいという項目、例えば、変電室改修、エレベーター改修、各戸玄関扉やサッシの交換などはすべて入っています。 その上で資金計画をしてきました。

マンションの維持管理には、専門家との連携と長期修繕計画が必要だと思っています。

3. コンサルタントからの報告

専有部分の設備工事は大きな鍵

〜二つの管理組合をコンサルタントとしてサポートした マンションNPOの専門家から〜

築後20年をすぎてくると、住んでいる人にはいろいろな考え方が出てきます。
「(修繕工事を)なにもそこまでやらなくても」と考える方も、当然いるわけです。

2回目以降の大規模修繕は、1回目と違い、工事範囲を大幅に選択しなければなりません。
住民への広報活動や合意形成も非常に重要です。
その時になくてはならないのが、工事の内容・時期、そして資金が見通せる長期修繕計画です。

長期修繕計画には、項目落ちがないようにしておくことが重要です。

専有部分の設備工事についても、ぜひ項目に上げておいてください。
要検討という入れ方でもいいでしょう。その上で一時負担金を集めなくてすむように資金計画(場合によっては積立金の値上げ)をしましょう。

さらに、修繕はできるだけ集約して効率よく行い、施工業者を選ぶ際には、共通仕様書で競争見積をすることも重要です。 そうして2回目、3回目の大規模修繕をしっかりやれば、次に向けてもっと住みやすくグレードアップする意欲が必ず生まれます。

専有部分の給排水管をどこまで手当てできるかどうかは、マンションの寿命に非常に大きくかかわってきます。
・「専有部分まで工事するかどうか」
・ 「どのくらいの改善改良を加えようか」
・ 「何年くらいもたせていこうか」 など、
今のうちからぜひ、 マンションで皆さんと話し合っていくようにしてください。

●マンションを長持ちさせる維持管理のポイント
□長期修繕計画に専有部分の設備工事も入れて資金準備を
□工事は集約して行う、競争見積でコストダウンを図る
□2回目の大規模修繕は、できる限りしっかりとやる
□マンションの将来について話し合いを始める