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2. 定期報告制度

特定建築物等の定期報告制度が平成20年4月1日から厳格化されました。

特定建築物等とは劇場、映画館、病院、ホテル、共同住宅、学校、百貨店等で一定規模以上のもの

平成18年6月の東京都内の公共賃貸住宅のエレベーターにおける死亡事故、 平成19年4月の東京都内の複合ビルのエレベーターにおける発煙事故、 同年5月の大阪府内の遊園地のコースターにおける死亡事故、 同年6月の東京都内の雑居ビルにおける広告板落下事故等、建築物や昇降機などに関する事故が相次ぎ発生し、 この中には、建築物や昇降機などの安全性の確保にとって重要な日常の維持保全や定期報告が適切に行われていなかったことが事故の一因と見られるものがありました。

建築基準法では、建築物の所有者、管理者又は占有者は、 その建築物(遊戯施設などの工作物を含みます。)の敷地、 構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない(第8条第1項)とされています。

さらに、特定行政庁が指定する建築物(昇降機などの建築設備や遊戯施設などの工作物も含みます。)の所有者・管理者は、 定期に、専門技術を有する資格者に調査・検査をさせ、その結果を特定行政庁に報告しなければなりません(法第12条第1項及び第3項)。

つまり、適切に維持管理するとともに、定期的な調査・検査の結果を特定行政庁に報告することは、 所有者・管理者に課された義務であり、定期報告をすべきであるのにしなかったり、 虚偽の報告を行った場合は、罰則の対象(百万円以下の罰金)となります。

近年、建築物や昇降機などの事故が多発していることから、 平成20年2月18日「建築基準法施行規則の一部を改正する省令」(平成20年4月1日施行)により、 定期報告制度の調査・検査の項目、方法、基準が厳格化されました。

2. 特定建築物等(外装タイル等の劣化・損傷)

平成20年3月31以前平成20年4月1以降

手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば「精密検査を要する」として建築物の所有者に注意を喚起

手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば全面打診等により調査し、加えて竣工 、外壁改修等から10年を経てから最初の調査の際に、全面打診等により調査

国土交通省告示 第282号(抜粋) (2 建築物の外部 外壁 (11)外装仕上げ材等)
建築物の定期調査報告における調査の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件
(い)調査項目
  タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く。)、モルタル等の劣化及び損傷の状況
(ろ)調査方法
  開口隅部、水平打継部、斜壁部等のうち手の届く範囲をテストハンマーによる打診等に より確認し、その他の部分は必要に応じて双眼鏡等を使用し目視により確認し、異常が 認められた場合にあっては、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分を全 面的にテストハンマーによる打診等により確認する。

(調査確認の強化)
 ただし、竣工後、外壁改修後若しくは落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的なテストハンマーに よる打診等を実施した後10年を超え、かつ3年以内に落下により歩行者等に危害を加え るおそれのある部分の全面的なテストハンマーによる打診等を実施していない場合にあ っては、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分を全面的にテストハンマ ーによる打診等により確認する(3年以内に外壁改修等が行われることが確実である場 合又は別途歩行者等の安全を確保するための対策を講じている場合を除く。)。

調査方法の具体例を以下にまとめます。

■外装材の条件
打診調査の対象になる外装材には、大きく3つの種類があります。

 1.タイル貼り(PC・ALC版に貼られる場合や工場で打込まれる場合も含む)
 2.石貼り  (乾式工法によるものを除く)
 3.ラスモルタル(モルタル塗 一般的に20〜40mm)

これらの仕上の場合、目視及び打診調査を行わなければなりません。 クラック(ひび割れ)や浮きが認められる場合、仕上材の一部が落下し、歩行者等に危害を加える恐れが出てきます。

(注)石貼り等では乾式工法を除くとなっていますが、これは接着モルタルなどで貼り付ける工法ではなく、 ファスナー金物とアンカーを使って固定する工法です。 この工法の場合、落下の危険性は低い為除外されています。

■築年数や改修工事等による条件
建物が竣工してから10年を超えているものについて、
 1.外壁改修工事を10年を超えて行っていない場合
 2.歩行者等に危害が加わる恐れのある部分の全面打診調査を10年を超えて行っていない。
上記1.2.に該当する場合、3年以内に外壁の全面打診調査を行う必要があります。
※まだ築年数が浅く全面打診調査が必要な建物に該当していない場合でも、 目視確認及び手の届く範囲の打診調査や、万が一異常個所がある場合はその箇所の全面打診調査が必要になりますのでご注意ください。

■一部例外条件
10年を超えていて全面打診調査を行っていない場合でも、一部例外があります。
 1.3年以内に外壁の改修工事を実施することが確実な場合
 2.歩行者等の安全を確保するための対策を講じられている場合
外壁改修工事の予定をしている場合は、その改修工事で異常個所の改善がなされるものとして判断します。
また、歩行者の通路等に安全確保の為の庇や屋根を設置するなど、外壁仕上材の落下時に十分な安全が確保されている状態の場合は例外となります。
※まだ築年数が浅く全面打診調査が必要な建物に該当していない場合でも、目視確認及び手の届く範囲の打診調査や、万が一異常個所がある場合は その箇所の全面打診調査が必要になりますのでご注意ください。

3. 建築設備等(換気・排煙・非常照明)

平成20年3月31以前平成20年4月1以降

重要項目以外は抽出検査(数回で検査対象全数を一巡するよう留意)

これまで対象設備の測定検査は抽出検査でよかったものが、改正で原則「全数検査」になりました。

但し現実的に毎回の全数検査が難しい場合、3年で全数検査が行われるように検査することが認められています。 また、報告書に添付する資料が増え、機械換気設備の検査結果は「換気状況評価表」と「換気風量測定表」に、 機械排煙設備の検査結果を「排煙風量測定記録表」に、非常用照明装置の検査結果を「照度測定表」にまとめて添付することになりました。 これにより検査業務内容も増え、必要換気量に足りているかの計算が必要になってくる為、報告書類の作業量も以前より増えています。

4. 昇降機

平成20年3月31以前平成20年4月1以降

ブレーキパッドの磨耗
目視により検査(不適合の判定基準は磨耗がはなはだしく制動力の維持が困難なとき)

磨耗の程度を測定し検査結果表に測定値を明記するとともに、結果の判定基準を明確化

主索の損傷
目視によりJISの基準を満たしていることを検査、満たしていなければ不適合

JISの基準を告示に規定、判定基準の法令上の位置づけを明確化、

5. 調査・検査の判定基準

要重点点検 次回の調査・検査までに「要是正」に至るおそれが高い状態であり、 所有者等に対して日常の保守点検において重点的に点検するとともに、 要是正の状態に至った場合は速やかに対応することをうながすものです。
要是正 修理や部品の交換等により是正することが必要な状態であり、 所有者等に対して是正をうながすものであり、報告を受けた特定行政庁は、 所有者等が速やかに是正する意志がない等の場合に必要に応じて是正状況の報告聴取や是正命令を行うこととなります。
指摘なし 要重点点検及び要是正に該当しないものです。

※なお、要是正及び要重点点検に該当しない場合にあっても、特記事項として注意をうながすこともあります。

下記は定期報告制度の概要と実態について解説しています。参考にしてください。
 「建築基準法の定期報告制度の実態」