9. 躯体診断(ひび割れ)
1.ひび割れ調査の目的
コンクリート構造物の耐久性を確保するためには、ひび割れ幅は重要な指標となっています。
コンクリートのひび割れ調査は、ひび割れの程度を調査し、原因を推定した上で、
その後の補修方法及び維持管理を行う上での判断材料を得ることが目的です。
ひび割れの状況によっては補修にとどまらず補強を必要とする場合もあります。
1.調査診断の流れ
2.調査診断報告書の見方
従来から用いられているひび割れ幅の測定方法としては、クラックスケールや測微鏡などがあります。
しかし、測定する位置によって測定値が異なったり、同じ測定位置であっても、
測定者によって読み取り値が異なるなど、人為差なく正確に読み取ることは難しく、ある程度の誤差は避けられません。
コンクリート技術者にとってひび割れは昔からの大きな関心事であり、 ひび割れ幅がコンクリート構造物に対して大きな影響を与えることが広く認識されているにも関わらず、 ひび割れ幅自体の定義もなく、その測定方法や評価手法について規格化されたものはありません。 調査報告書には、どのような測定方法や評価手法で調査・評価したのかが記載されていることを確認してください。
連続した一本のひび割れであっても、ひび割れ幅は一定でなく、測定位置によってひび割れ幅は異なります。 最大ひび割れ幅とは、具体的にどの位置で測定したものか、また、どのような評価に基づくものかの記載があるかを確認してください。
3.調査の注意点
ひび割れは発生原因によって形状パターンが異なります。
調査に当たっては必ず発生原因を探ることが必要です。
(管理会社が作成した調査報告書で、単にひび割れ箇所の写真を並べただけの調査報告書を見かけることがあるが、
そのような報告書はプロの診断技術者が作成するレベルではない。)
ひび割れの発生原因が最大荷重などの構造的な要因によるものか、 コンクリートの収縮など材料特性によるものかを確認すること。
構造的に問題があると推察される場合には、ひび割れ幅の大小にかかわらず、構造技術者、あるいは専門家の判断を、 あおぐようにしてください。
マンションを分譲したデベロッパーの系列下にある管理会社が診断業務を受注した場合、 親会社に不利な診断をすることはありえません。 構造的に問題がある場合でも、地震の影響によるものだとの虚偽の説明をする例が後を絶ちません。 今、全国でいろいろな問題が発生しています。
管理会社及び管理会社とつながっている業者に診断業務を発注する事は避けて、 独立した第三者で信用と実績のある診断業者を選定するようにしてください。
「とりあえず、調査診断だけ」という管理会社の甘言にのって発注してしまうと、 取り返しのつかない事態を招くことになります。
2.ひび割れの劣化度判定基準
区分 | 区分基準(ひび割れ幅)(注1) | 構造専門家の判断 | 補修・補強の判断(注2) | |
屋外 | 屋内 | |||
T(軽度) | 0.05mm未満 | 0.2mm未満 | 否 | 否 |
U(中度) | 0.05〜0.5mm未満 | 0.2〜1.0mm未満 | 必要に応じて | 要 |
V(重度) | 0.5mm以上 | 1.0mm以上 | 要 | 要 |
(注1):この判定基準は、橋梁やトンネルなどの土木構造物を含めた一般基準です。
建築構造物での補修要の判定基準は0.5mmではなく0.3mmが一般的です。
(注2):ここでの「補修・補強」というのは、コンクリート材の「ひび割れ補修、補強」のことで、
ひび割れ箇所をV(U)字カットし、ポリマーセメントなどを充填する工法のことをいいます。
(参考1) 土木学会・許容曲げひび割れ幅
土木学会・コンクリート標準示方書設計編(p.113)では、許容曲げひび割れ幅を下表で示しています。
かぶり厚さ C=40mm の場合、0.005C の許容曲げひび割れ幅は0.01mmです。
(参考2) 日本コンクリート工学協会、補修・補強指針
(社)日本コンクリート工学協会・コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針、2003.p.61
3.ひび割れ形状と原因
1.柱のひび割れ
原因 | @かぶり厚さ不足 | Aかぶり厚さ不足 | B鉄筋腐食 |
形状 | |||
解説 | 帯筋に沿って発生 | 柱頭部や柱脚部で鉄筋の偏りが発生したため | コンクリート中の塩化物による主筋の腐食 |
原因 | C乾燥収縮 | D曲げひび割れ | Eせん断ひび割れ |
形状 | |||
解説 | 柱の角部に横方向のひび割れ | 柱頭部や柱脚部に加わった曲げ応力 | 地震時のせん断ひび割れと主筋に沿ったひび割れ |
2.梁のひび割れ
原因 | @曲げひび割れ | Aせん断ひび割れ | Bアルカリ骨材反応 | C凍結融解作用 |
形状 | ||||
解説 | 曲げモーメントによる微細なひび割れ | 不同沈下や地震時のせん断応力 | 梁の中心部の水平なひび割れ | 亀甲状のひび割れ |
3.壁のひび割れ
原因 | @乾燥収縮ひび割れ(窓・開口部) | A乾燥収縮ひび割れ(大壁) | B不同沈下によるひび割れ | C鉄筋腐食によるひび割れ |
形状 | ||||
解説 | 開口部角部のひび割れ | 縦の引っ張りひび割れ | 逆八字形のひび割れ | かぶり厚さ不足によるひび割れ、剥離、鉄筋露出 |
参考文献
建設大臣官房技術調査室監修
「建築物の耐久性向上シリーズ 建築構造編1
鉄筋コンクリート造建築物の耐久性向上技術」1986,技報堂出版