8. 躯体診断(圧縮強度)
1.コンクリート圧縮強度試験の目的
コンクリートは圧縮に対しては強いが、引っ張りに対しては弱いという性質があります。 そこで圧縮には弱いが、引っ張りには強い鉄筋をコンクリートの中に入れて、 両者の弱点を補う構造物が鉄筋コンクリート造です。 その圧縮に強いはずのコンクリートも表面の劣化や爆裂による剥離が発生している場合は、 圧縮強さが低下しています。
躯体診断(コンクリート圧縮強度)は、建物の躯体コンクリートに劣化現象が見られる場合、 コンクリートの圧縮強度が設計上の必要強度を確保しているか否かを調査し、 適切な改修及び維持保全をおこなうための判断材料を得る目的で行います。
コンクリートの強度管理の基準
【建築基準法施行令第74条】
設計基準強度との関係において安全上必要なコンクリートの強度を確認する場合
2.コンクリートコア供試体抜取り試験法
1.試験の方法
コンクリート圧縮強度試験は日本工業規格(JIS)及び国際規格ISOで定められた方法で行います。
JIS A 1107:2012 コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法
ISO 1920-6:2004, Testing of concrete-Part 6: Sampling, preparing and testing of concrete cores
JIS A 1108:2006 コンクリートの圧縮強度試験方法
ISO 1920-4:2005, Testing of concrete-part 4: Strength of hardened concrete
コンクリート圧縮強度試験機に供試体を挟み、圧力をかけ破壊するまでの強度を測定します。
2.コンクリートからのコアの採取方法
コアの採取には,コンクリート用コアドリルを用いる。
コアは、打継ぎ面、型枠際をさけ、鉄筋がない箇所から採取する。
鉄筋、ひび割れ、豆板がある場所は避ける。
3.供試体の寸法
a) コア供試体の直径は、一般に粗骨材の最大寸法の3倍以上とする。
b) コア供試体の高さと直径との比は、1.90〜2.10 を原則とし、1.00を下回ってはなりません。
コア供試体は、試験のときまで20±2℃の水中に40時間以上漬けておくと、
試験時に供試体の乾湿の条件をほぼ一定にすることができます。
乾燥させた供試体は見掛けの強度が増加するので注意
3.反発硬度法(シュミットハンマー法)
コンクリート表面をシュミットハンマーで打撃して、その反発硬度から強度を推定する方法です。
試験箇所の選定
柱や壁に直角に打撃する体勢上、床から130cm〜150cmの高さでコンクリートのサイドより3cm以上の
内側の乾いている場所でコンクリート厚みが10cm以上の箇所を選定します。
コンクリート厚みが10cm以下の場合は打撃エネルギーが弱くなり、反発値(R値)が低くなります。
また、濡れているコンクリートや湿っているコンクリートの場合も同様にR値が低くなるので、測定は避けます。
コンクリートの表面に塗装や汚れがある場合は、シュミットハンマー付属の砥石・カーボランダムシトーンで表面研磨します。
測定面は、型枠に接していた面で表面組織が均一でかつ平滑な平面部を選定します。
また、測定面にある豆板、空泡、露出している砂利等の部分は避けます。
試験箇所(測定点)は土木学会、建築学会 の指針では20点、打撃点間隔は3cmとなっています。
シュミットハンマー法は測定方法の違いによる変動や偏差が大きいので、測定方法をできるだけ統一し、
1箇所の測定値を得るのに必要な打撃点を多くしてあるのも、変動を少なくするためです。
1回打撃を行った点は、測定値に影響を与えたり、あるいはコンクリートを傷つけたりする恐れがあるので、使用してはなりません。 そのため、打撃点の位置などを測定前にコンクリート面に書き込んでおきます。 また、測定は20点以上で行っておいて、整理の段階で捨てられる測定値が出てきても測定点数が不足しないようにしておきます。 測定箇所数を満たすため、12打点×2箇所等の区域を分けて計測する等の方法もあります。
測定反発度の計算
測定反発度(R)は、測定した20点の全測定値の平均値(測定反発度)を算出し、
有効数字3けたに丸めます。ただし特に反響やくぼみ具合等から判断して明らかに異常と認められる値、
またその偏差がその平均値の20%以上となる値があれば、それを排除し削除した数だけデータを追加します。
4.劣化度の判定
劣化度は、当該建物の設計基準強度と調査による圧縮強度比(%)を算出し、 3段階に分けて判定します。
区分 | 区分基準(設計基準強度比 %) | |
コア供試体抜取り試験法 | 反発強度法 | |
T(なし) | 100以上 | 100以上 |
U(中度) | 85以上100未満 | 85以上100未満 |
V(重度) | 85未満 | 85未満 |
区分 | 構造専門家の判断 | 補修・補強の判断 |
T(なし) | 否 | 否 |
U(中度) | 必要に応じて行う | 要 |
V(重度) | 要 | 要 |
※ 出典
1986年出版建設大臣官房技術調査室監修「建築物の耐久性向上技術シリーズ 建築構造編1」