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2. 民泊と宿泊需給状況

訪日外国人旅行者数の推移は為替レート次第

 政府は訪日客を 2020年に4000万人、2030年に6000万人にする目標を掲げ、 旅行者が一人当たり20万円を消費すると4000万人で8兆円の消費が見込まれると予測しています。 観光庁の調べでは、訪日客の消費額は2016年2,400万人で3.7兆円、2017年2,869万人で4.4兆円でした。

 実際には訪日客数は為替レートにリンクし、かつ、 訪日客全体の87%が中国、韓国を始めとする東アジア圏からの旅行者であることなど、 政治情勢や地政学上の影響を受けることになります。

1. 訪日外国人旅行者数の推移

訪日外国人旅行者数の推移

出典:JNTO(日本政府観光局)のデータをマンションNPOでグラフ化したもの

宿泊需要が既存施設の供給室数を大幅に上回るから民泊は必要であり、 空き家対策にもなるとの民泊推進理由の説明には、訪日外国人旅行者数のグラフが使われます。

しかし、海外渡航する日本人の数を同じグラフにすると、 訪日外国人のインバウンド数よりも、海外渡航する日本人のアウトバウンド数のほうが多かった時代が50年以上も続いていたことに気づかされます。 外国人インバウンド数が1000万人を超えたのが2013年、 訪日外国人の数が日本人海外渡航者数を超えて逆転したのは、ようやく2015年になってからでした。

出典:JNTO(日本政府観光局)のデータをマンションNPOでグラフ化したもの

東日本大震災が発生した2011年、外国人インバウンド数は前年比27.8%減と落ち込み622万人だったとき、 国外に出かけた日本人の数は1,699万人と前年よりも増加し、訪日外国人の2,7倍になっていました。 日本で災害が発生すると外国人は来なくなりますが、日本人の海外渡航者数は減っていませんでした。

その後、日本人の海外渡航者数は2012年をピークに減少に転じ、訪日外国人数は逆に大幅に増加しています。 その理由は為替変動で円安になっていったグラフを見ればわかります。

訪日外国人数合計のうち中国と韓国で半分を占め、訪日外国人のうちアジア地域からの訪日は87%にも達します。 日本のインバウンドはアジア観光客頼みというのが実態です。下記に外国為替レートを示しました。

10年間(2008年4月-2018年3月)の外国為替レート (月足)グラフ
単純移動平均 緑(9月)、赤(24月)、青(60月)

中国人民元/円(CNH/JPY)
2012年 12円 2015年夏 20円(1.7倍)

韓国ウォン/円(KRW/JPY)
2012年 0.06円 2015年夏 0.11円(1.4倍)

米ドル/円(USD/JPY)
2012年 77円 2015年夏 125円(1.6倍)

2. 訪日外国人旅行客の内訳

2017年の訪日外国人旅行客(インバウンド)数は、28,691,073人(前年比19.3%増)となり、 16年の24,039,700人(前年比21.8%増)を超えました。 東日本大震災時の前年割れ以来、6年連続で過去最高を更新しましたが、 中国の伸び率が鈍化したのが影響して全体の伸び率は縮小しています。 伸び率が縮小した理由は、為替で2016年から円高に転じたからです。

2017年の国別の訪日客数トップ5は次の通り
1.中国 7,355,818人(前年比 15.4%増)
2.韓国 7,140,165人(同 40.3%増)
3.台湾 4,564,053人(同 9.5%増)
4.香港 2,231,568人(同 21.3%増)
5.米国 1,374,964人(同 21.6%増)

 

トップ4の東アジア諸国が全体の74%を占めています。

地域別で見ると
1.アジア計   24,716,396人(前年比 21.0%増)
2.北アメリカ計  1,756,732人(同 11.9%増)
3.ヨーロッパ計  1,525,662人(同 7.3%増)
4.オセアニア計   564,527人(同 11.6%増)
5.南アメリカ計    92,106人(同 18.1%増)

アジア全体では87%にも達します。
アジア観光客頼みというのが実態です。

国別の訪日客数でトップを占める中国の事情

中国国家観光局によると、2015年の中国国内旅行者数は40億人、海外旅行者数は1億2,000万人に達し、 国内旅行者数、海外旅行者数、国内観光消費、海外観光消費のいずれもが世界一となりました。

2015年の中国の海外旅行者数1億2,000万人のうち、2015年に訪日した中国人数は4,993,689人と、 2014年の2,409,158人と比べ前年比2倍の伸びを見せましたが、 それでも中国の全海外旅行者数の4%にすぎませんでした。

アジア太平洋地域を訪れる海外からの渡航者(一泊以上)総数に対する中国人渡航者数のシェアは、 2009年には第6位(5.8%)でしたが、2012年には第1位(9.8%)にランクアップし、 それ以降の5年間、中国は第1位を維持しています。

一方、同地域における日本のシェアは2009年の第1位(9.7%)から2016年に第5位(5.6%)に落ち込み、 2009年から2016年までの複合年間成長率(CAGR)は1.1%に留まっています。

2016年の一泊以上する渡航者数ランキングで人気のある都市の順位は、 バンコク(2千150万人)、シンガポール(1千210万人)、クアラルンプール(1千200万人)、東京(1千170万人)、 ソウル(1千20万人)の順でした。(2016年の訪日外国人の総数は2千404万人)

3. 中国政府が後押ししている中国民泊仲介サイト

中国国内では不動産の空き家問題が深刻化しており、 現在空き家は5,000万件ほどあると言われています。

中国政府はこの空き家問題の解決策として民泊に注目しており、 政府の政策的な後押しもあって、中国民泊仲介サイト勢が急速に世界中でシェアを拡大しています。
 「世界の民泊事情」> 3.各国の民泊仲介サイト 参照

4. 民泊は観光立国に寄与するか

訪日した外国人観光客の不満(観光庁のアンケートから)

1.全般的に英語が通じない。英語による情報手段、地図が不十分。
2.クレジットカードが利用できるATMが少ない。場所もわからない。 (注1)
3.無料Wi-Fiがよく整備されていない。
4.インフォメーションセンターの数が少ない。
5.観光案内所から紹介されたホテルは、インターネットで検索できるホテルに比べて料金が高い。
6.祭りの際に英語案内が少なすぎる。
7.駅の案内板がわかりにくい。クレジットカードで切符を買えない。(注1)

(注1)
日本ではクレジットカードや電子マネーなどで支払うキャッシュレス決済が進んでいない。 小売店などで現金しか使えないことに訪日客の4割が不満を持っている。(VISA調査)

日本クレジット協会(銀行系カード会社の業界団体)は民泊新法で増える旅行客のために地方のキャッシュレス推進政策の立案を提案しているが、 地方の小売店の42%は売り上げから差し引かれるカード会社の手数料が高いのが原因で加入していない。(経済産業省調査)

韓国で1999年に年間のカード利用額の20%を所得控除する制度で3年間で利用額が7倍に増えた事例を参考に、 経済産業省では加盟店がカード会社に払う手数料の一部を補助する補助金案や税の優遇策を検討中。 民泊新法を口実にした経済産業省とクレジット業界の便乗商法。

掲載 2018/5/17