ホーム > 【前頁】 5.大規模修繕を成功させるポイント > 6.コンサルタント選びの落とし穴

6.コンサルタント選びの落とし穴

コンサルタント選びの落とし穴

まえがき

セミナーで話をする羽鳥 修 一級建築士

2018/6/17(日) 中野区産業振興センターで開催のマンションNPOセミナー「あなたのマンションの修繕積立金と管理費を守ろう !」 で、マンションNPOの羽鳥 建築士は、数々のデータを示しながら「コンサルタントの役割」と 「コンサルによって工事金額が大きく違った事例」を紹介し、注意を呼びかけました。

(セミナーで話をする羽鳥 修  一級建築士)

1.コンサルタントの役割

●不誠実なコンサルタント・管理会社の存在

2016年の末頃から、多方面で「施工会社からバックマージンを受け取るコンサルタントや管理会社」の問題が取り上げられています。
結局、その費用は工事費にプラスされ、管理組合が高い工事費を支払うことになるわけです。

●そもそも、大規模修繕のコンサルタントって?

コンサルタントは、大規模修繕の際に、管理組合の立場に立ち管理組合の利益を守る専門家です。

業務としては、「建物診断→仕様書作成(設計)→施工会社選定支援→工事監理」を行います。
適時、管理組合に進め方のアドバイスもします。
長期修繕計画の作成や、場合によって瑕疵交渉も行います。

●コンサルタントの大きな役割とは

まず、羽鳥建築士は、コンサルタントには2つの大きな役割があると説明しました。
「コスト管理」と「施工の品質を守る」ことです。

(1)コスト管理(その1)「厳正な競争見積をする」

〈資料1〉は、3つのマンションの競争見積の総合計を比較したものです。
決定した金額と平均金額との差が8〜25%になっています。
このように厳正な競争見積によって競争原理が働くと、工事金額は低減します。

管理会社(管理会社紹介の会社)との比較では、管理会社が18〜53% も高くなっています。
マンションNPOの数多くのコンサル経験上、この傾向は顕著に見られます。

もし、管理会社に安易に工事を依頼すると、何割も高い工事費を支払う可能性が高いということです。

コスト管理「厳正な競争見積をする」

(2)コスト管理(その2)「実数精算項目の増減査定」

精算項目とは、タイルの割れや浮き、コンクリートのひび割れ、 塗膜剥離の補修など工事に入って足場をかけて全部を見なければ、正確な数量がわからない項目のことです。

見積りを取る際、コンサルタントは、精算項目には、暫定数量を入れておきます。
施工会社はその数量に各自の単価を入れて、暫定金額を算出します。

工事が始まれば、実際に補修した枚数や面積などの数量がはっきりしてきますので、 進捗状況に合わせて、実際に実施した数量を入れて、計算し直しすることになります。

セミナーの中で、羽鳥建築士は、約5,900万円で契約した工事で精算項目で450万円が減額になった例を紹介しました。 管理組合は、その費用の一部を使って全戸の網戸張替を実施したそうです。

このように、大規模修繕の契約金額は固定されたものではなく、金額も内容も変動します。
どう変動するのか、その鍵をにぎるのは、コンサルタントです。

コンサルタントが実際にかかった数量をしっかりと誠実にチェックすることが、 管理組合のメリットにつながります。

(3)施工の品質を守る

コンサルが工事監理によって、工事の品質を確保をするのは大前提です。
それによって今後の工事周期を延ばすことができれば、長い目でみた時に大きな節約にもなります。

2.コンサルタントによって何が違ったか

セミナーでは、2つの工事金額も紹介されました〈資料2〉。

●2つの工事金額の比較

築25年・約100戸のマンションの2回目の大規模修繕のことです。

施工会社選定まで進み、見積金額が出そろった時点で、管理組合がコンサルタントを解約(以下 解約コンサル)。

その後、あらためてマンションNPOとコンサル契約を結び、担当となった羽鳥建築士が建物診断を実施、 施工会社の競争見積をしました。そのため、「解約コンサルが行った競争見積での最安値の見積金額」と 「今回決定した施工会社の見積金額」の比較が可能になりました。
項目ごとの説明は〈資料2〉をご覧ください。全体としては、2,000万円以上の違いがあるという結果になりました。

もし、この管理組合がコンサルタントを解約しなかったとすると、2,000万円以上高い工事費用を支払っていたということになります。
しかも今回必要ありとして追加されたその他の建築工事はやらずじまいだったことでしょう。

工事金額比較事例

コンサル解約に踏み切ったわけ

この事例では、管理会社が建物診断を実施。
その後、理事会は管理会社紹介の3社の中から、 最も価格が安く、プレゼン内容もよかったコンサルタント会社を選びました。

ところが、施工会社選定に入ると様々な不信感がでてきました。
その1つが、施工会社の公募を自身の会社のホームページのみで行ったことでした。
管理組合が、広く新聞でも公募してほしいと要望しても、理由をつけて断られたそうです。

結果施工会社5社が見積りに参加し、競争見積の形はとりました。
しかし、その最安値だった工事金額は、実は、非常に高かったと言わざるを得ません。

これから大規模修繕を行う管理組合は、金額の相違、工事内容の違いをこの事例から、 ぜひ読み取っていただきたいと思います。

3.コンサルタント選びの落とし穴

通常、修繕委員会あるいは理事会が複数の候補からコンサルタントを選びますが、 選ぶ際に比較しやすいのが金額と会社の規模です。

「そうなる事情も理解できる。が、そこに落とし穴がある」と羽鳥建築士は訴えました。

コンサルタントの2つの役割を考えると、管理組合の立場に立とうというスタンスを持つ専門家でなければ、 その役割ははたせないと思います。

コンサル費用の安さや会社の規模より、担当者個人の実績や経験、熱意、評判、 リピーターが多いかどうかなどのほうが重要ではないでしょうか。

その人が担当した大規模修繕の仕上がりを見に行き、役員さんからも話を聞いて、 判断に自信が持てたという組合も多いです。選ぶ際には、そういった点にこそ、焦点をあててほしいと思いました。

また、管理会社に建物診断やコンサル候補選びを安易に任せてしまうと、 その時にはもう施工会社まで決まっているような場合もあり得ます。くれぐれも、注意してください。

大規模修繕によって、マンションの快適性は高まり、寿命は延びます。
工事の質がよければ修繕周期も伸びていきます。
コンサルタント選びは、時間と労力がかかったとしても、その価値が十分にある管理組合の仕事ではないでしょうか。

(2018年6月17日掲載)- マンションNPO通信81号(2018/8/15発行)