12. 総会Topics インボイス制度と電子帳簿保存法
1.インボイス制度
2023年(令和5年)10月1日から消費税の仕入税額控除のインボイス制度が開始されます。
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」といい、消費税について、
一定の要件を満たした「適格請求書」(=インボイス)に基づき計算し、
証拠資料として保存する方式のことです。
併せて、これらの証憑を電子保存するための電子帳簿保存法も改正されました。
2019年10月から消費税は標準税率10%と軽減税率8%の2本立てとなりましたが、導入時の混乱を避けるため、 請求書(Invoice)等の証票・証憑(Vouchers)に適用税率や消費税額等を記載することを義務付けるのを4年間(19年10月〜23年9月)猶予していました。
適用税率や消費税額等を記載した適格な請求書を発行する納税事業者には「登録番号」が付与され、 この登録番号や税率を付与した適格請求書に商用英文の"Invoice"(請求書)をあてています。
実際にはこの適格請求書と米国の"Invoice"(請求書)の記載要件とは一致していません。
そもそも証票制度(Voucher System)が違う。
輸出入の代金決済に用いるのが"Invoice",日本国内で税務申告に用いるのがインボイス。
インボイス制度の狙いは免税事業者を淘汰することにあると言われています。免税事業者の
淘汰が価格決定権のない零細事業者の淘汰につながらなければいいのですが。
2.電子帳簿保存法
インボイス制度に関連して改正された電子帳簿保存法(2022年1月1日施行)は、
国税関係の帳簿や書類を決められた規則に従って電子データで保存するルール
を決めた法律です。詳しくは、2.電子帳簿保存法 参照
1.インボイス制度
複雑なインボイス制度の仕組み
1.消費税の仕入税額控除の計算例
事業主が月額賃料10万円+消費税1万円で店舗を借りて、月額売り上げ100万円+消費税10万円だとすると、 仕入れ税額控除して納める消費税は(10-1)万円で、9万円になります。 ところが、店舗の賃貸オーナーがインボイス登録をしなければ、この仕入れ税額控除は認められず、 事業主は10万円の消費税を納付しなければならなくなりました。 考えられる対策は賃貸オーナーに賃料を税込10万円に値下げするよう要求するか、または、課税事業者の登録をしてもらって、 税込11万円で賃借人にインボイスを発行し、1万円の消費税を賃貸オーナーが自分で納税するかのどちらかを選んでもらうことになります。 今まで年間売上高1,000万円以下の免税事業者は、受け取った消費税を納税することなく、自分の手元に残る「益税」だったのですが、 インボイス制度開始以降は、これができなくなります。つまり、課税仕入れの消費税額が大きい場合は、免税事業者のまま、 消費税分の値下げに応じるよりは、適格事業者になって仕入れ税額控除をしたほうが所得の減少を緩和できます。 「益税」 (※1) をなくして、税負担の公平性を図ること。これがインボイス制度の狙いです。 基準期間(課税期間の2期間前)の課税売上高が5,000万円以下の事業者であれば、本来の「原則課税」ではなく、 「簡易課税」を用いて、仕入税額控除の額を売上消費税の業種ごとに定められた「みなし仕入率」で納税額を低減することができます。 但し、業種平均よりも課税仕入高が大きくて採算の悪い場合は原則課税を選択したほうが課税額が低くなる場合もあります。 ○ 「23年度税制改正大綱」に盛り込まれた「激変緩和措置」(2022年末に決定した)
課税売上高が1億円以下の事業者は、インボイス制度導入から6年間は支払金額1万円未満はインボイス不要となります。 (※1) 「益税」は完全にはなくならない
飲食店やホテルでは、ビジネス出張者から経費で落とすためのインボイスを求められますが、 小売業など不特定多数の顧客にスピーディな対応を求められる業種には、 従来の領収書に下記の3項目を追加するだけの「簡易インボイス」の発行が認められています。 @適格事業者の住所・事業者名、登録番号 A消費税の適用税率と合計金額 B税率ごとに区分した消費税額 但し、簡易インボイスは消費税課税事業者の登録をした上での話で、 そもそも登録をしない免税個人事業主の飲食店は「インボイス客お断り」の張り紙をするかも? ○ 社員が立替えた小口経費
○ 社員の出張旅費交通費
○ 消費者から買い入れて販売する業種
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管理組合の事業区分
○ 管理組合のインボイスは営利事業にのみ適用されます。
(参考) 「管理組合会計」−[第3章 管理組合と税制]−「3.1 管理組合に係る諸税」
「第4章 管理組合会計の規程」−「4.6 区分経理」 (下記 表1)
表1 管理組合の事業活動区分(=区分経理のセグメント情報) ├─事業活動別情報 │ │ │ ├─非営利事業の種類別 │ │ ├─管理費会計 │ │ ├─修繕積立金会計 │ │ ├─駐車場使用料会計 │ │ ├─専用庭使用料会計 │ │ ├─トランクルーム使用料会計 │ │ └─その他の非営利事業会計 │ │ │ └─営利事業の種類別 │ ├─地代、看板料、駐車場の外部賃貸事業 (*1) 図1参照 │ ├─コインランドリー、自動販売機事業会計 │ └─その他の営利事業会計 │ └─事業単位別情報 │ ├─複合型建物の事業単位別会計(テナント床・居住床) (*2) └─団地建物の棟別会計
(*1) 図1 駐車場は収益事業(駐車場業)と非収益事業(共済事業)に分かれる。
詳しくは、「3.3 駐車場の収益事業判定」 参照
(*2)共有部にテナントをもっているマンションの管理組合は営利事業の不動産貸付業に該当する。
不課税とは、対価性がなく、資産の譲渡等に該当せず課税されないもの。管理費・修繕積立金
管理組合が雇用する従業員人件費も不課税取引です。
非課税とは、資産の譲渡等のうち、課税しないこととされているもの。
(*3)課税売上高=原則として当該課税期間中に行った課税資産の譲渡等の対価の合計額
をいい、課されるべき消費税に相当する額を除きます。平成15年度税制改正(平成16年
4月1日より適用)以降、消費税免税の適用上限は1,000万円に引き下げられています。
(参考) 賃貸マンションの課税と非課税の区分
項目 | 課税事業 | 非課税売上事業 |
---|---|---|
建物の賃料 | 店舗、事務所、工場等の賃料・共益費・礼金・更新料 | 居住用の賃料・共益費・礼金・更新料 |
駐車場の賃料 | 〜 条件があります。下記参照 〜 | |
土地の賃料 | 1ヶ月未満の一時貸しの地代 | 借地の地代 |
共益費と別に徴収する電気代・水道代 | 「賃借人から徴収する金額」と「賃貸オーナーが支払う金額」に差がある場合 | 賃借人からの預かり金処理している場合、単なる立替金で差額が生じない場合 |
テナントの現状回復工事費用 | 賃借人負担分は非居住用・居住用どちらも該当 | ー |
○ 賃貸マンションの賃料
個人が居住するための賃料には消費税がかかりませんが、
課税事業者が借りている店舗や事務所などの賃料には消費税がかかります。
○ 賃貸マンションの駐車場賃料
次の全てに該当するものを「居住用の賃貸借契約に付随する駐車場」と言い、
要件を満たした場合、駐車場賃料を居住用賃貸住宅の賃料に含めることで、非課税となります。
要件を満たさない場合は課税売上となります。
(1) 集合住宅に係る駐車場で、入居者1戸当たり1台分以上の駐車スペースを確保している。
(2) 自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられ、賃料とは別に駐車場使用料を収受していない。
事例1.非営利事業のみの管理組合
組合員からの質問事例
[組合員] 私が管理組合に納付している管理費や修繕積立金、駐車場使用料のインボイスを
発行してもらえますか? 私は事情あって今回、適格事業者になったので。
[会計担当理事] 管理組合が組合員から収受している管理費等は管理組合の課税売上には
該当せず不課税とされているもので、消費税は頂いておりません。従って区分所有
者の皆様におかれましても、当該費用を課税仕入れとすることはできません。
当管理組合の事業は非営利事業のみですので、インボイスは発行しておりません。
注意
表1 [管理組合の事業活動区分] の非営利事業のみしか行っていない管理組合は上記の通りですが、
[管理組合会計] ー[3.2 収益事業の意義と範囲[ ー 「4 給与・報酬の源泉所得税」
で示すように、非営利事業であっても納税義務が発生するケースもありますので、注意が必要です。
所得税法の源泉徴収票は消費税法のインボイスではありません。
事例2.収益事業を行っていて免税事業者の管理組合
[管理組合会計] ー[3.2 収益事業の意義と範囲] で説明しているように、 収益事業に該当し、基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の場合は消費税免税事業者となることができます。 (消費税法9条。小規模事業者に係わる納税義務の免除)
この免税事業者の管理組合がインボイス制度の適用を受けるには、次の手続きが必要です。
(1) 「消費税課税事業者選択届出書(届出書)」:(課税事業者になるための届出)
申請期限: 本来は課税事業者になりたい課税期間が始まる前に提出しなければならないが、
2023年10月1日〜2029年9月30日の日の属する課税期間であれば、適格事業者の登録を
受けた日からいつでも適格事業者になることができるという特例が設けられた。
(2) 「適格請求書発行事業者の登録申請書(登録申請書)」:(免税事業者が適格事業者になる
ための申請) 申請期限:2023年10月1日〜2029年9月30日の日の属する課税期間
免税事業者が適格事業者になった後に、登録取消届出書を提出しても課税事業者と
しての納税義務は残ります。(網にかかった魚は逃さない)
インボイス制度は複雑怪奇で、免税事業者の管理組合が適格請求書発行事業者(適格事業者)になるかならないか、 本則(原則)課税か、簡易課税かの選択、そして、税務署への届出や申請書作成業務など、専門家の税理士の助言と 手続き代行が必要になってきます。
税理士の関与に関して言えば、単に、インボイス制度を導入する仕組みづくりだけでなく、日々の会計仕訳記帳実務でも、 納税者となった管理組合が受領した適格請求書に記載されるべき要件が欠けていないか、 仕入先が適格事業者なのか、免税事業者(建物や設備の修理を依頼する業者には一人親方と言われる個人事業主が多い) なのかの確認と対応が必要になります。
適格事業者でもないのに、偽装インボイスを発行すると、発行者が罰則を受けるのは勿論、 受領して仕入税額控除した側も追徴課税を受けます。相手が適格事業者かどうかは、適格事業者が法人の場合であれば 国税庁の公表サイトで登録番号から確認できますが、 相手が個人事業主の場合、個人情報保護の観点から国税庁からは確認データは取れません。確認は実際には難しい。
○持続化補助金とIT導入補助金 免税事業者が課税事業者に登録する場合の支援給付
(1) 持続化補助金(税理士相談費用等):現行の50〜200万円に対し一律50万円が加算される
(2) IT導入補助金(会計ソフト購入やクラウド利用費)
事例3.収益事業で既に納税している管理組合
本Hpの 「管理組合会計」 ー 「3.3 駐車場の収益事業判定」 の末尾で
「収益事業を行っているA管理組合法人の例」 を紹介しています。
このような、納税事務に習熟している(はずの)管理組合でも、 [事例2]で、問題として指摘した日々の会計仕訳記帳実務や受け取ったインボイスの内容の確認などは、 問題としてそのまま当てはまります。
更に、会計システムソフトのインボイス対応への改修とコストが発生します。
一例を挙げると、個別の請求書ごとに仕訳記帳(データ入力)した消費税額と月次一括計上の請求書の合計消費税額で
差が出ることがあります。原因は1円未満の消費税額の端数処理にあります。従来は商品ごとに、切捨て、切り上げ、四捨五入
のどれかを行いそれを合計する方法でしたが、月次一括計上の請求書の合計額で差がでてきた場合、入力済みの請求書を
修正することはインボイス制度では認められません。1件のインボイスに対して端数処理を行うのは1回だけです。
23年度税制改正大綱で決められた激変緩和措置はいずれも期限が区切られています。
管理組合として検討する時間の猶予もあまり残されていません。
2.電子帳簿保存法
インボイス制度に関連して改正された電子帳簿保存法(2022年1月1日施行)は、 国税関係の帳簿や書類を決められた規則に従って電子データで保存するルールを決めた法律です。
○法務省管轄「区分所有法における電子化文書の規則」 〜全ての管理組合が対象〜
「区分所有法施行規則・電磁的記録と法務省令第47号」
及び、上記法令の解説 「組合文書の電子化の注意点」 (参照)
○国税庁管轄「電子帳簿保存法」 〜納税管理組合だけが対象〜
(1) 電子帳簿等保存
事業者が会計ソフトを使用して作成した電子帳簿や契約書、請求書、決算書類などを保存
(2) スキャナ保存
見積書、注文書、請求書、領収書などの取引書類をスキャン、若しくはスマホやデジカメで
撮影して画像で保存
(3) 電子取引データ保存
電子メールやEDI(電子データ交換)、クラウドデータなどの送受信データを電子データの
まま保存
保存期間:7年間
電子帳簿保存のルール
先に挙げた「組合文書の電子化の注意点」で説明している電子データに要求される
真正性(真実性)、見読性(可視性)、検索性、保存性 がそのまま会計証票にも適用されます。
○事業継続性の対応能力を考えて、できるだけシンプルに
管理組合は定期的に理事が交代する上に、台風地震などの自然災害時には事務作業も停滞、混乱し、
復旧にも時間がかかります。企業とは異なり、事業継続性の対応能力は劣ります。
電子データの真実性の証明には、認可を受けた時刻認証業務認定事業者(TSA)が発行するタイムスタンプを付与する方法が示されていますが、 それ以外に事務処理規定や、データの訂正・削除履歴をすべて残すシステムの採用などもありますので、 身の丈にあった、できるだけシンプルな方法を採用して下さい。管理組合は事務コストも企業のようにはかけられません。
インボイス制度の適用を検討されている管理組合は、併せてご検討下さい。
(2023年2月15日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 15 February 2023/ Revised Publication -time to time)