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CAT判例、クラホグル氏と猫ドマテス (2023 ONCAT 20 )

CanadaのCATでcatの裁判

(1) 最初のCATはカナダ・オンタリオ州・コンドミニアム裁判所(the Condominium Authority Tribunal 以下CATと略)で、 直訳すると、コンドミニアム庁管轄行政裁判所のことです。コンドミニアム庁は州当局と行政契約を結んだ非営利法人で 公権力(行政執行権)を有し、司法権を持つ裁判所CATを傘下に持っています。 全共同住宅所有者から徴収する目的税を運営財源とする住民自治の制度です。

(2) 2番目のcatはクラホグル氏の飼っているメス猫ドマテス(テスはテレサの愛称)です。

(3) 賢治さんの童話「オッベルと象」はつぎのような書き出しで始まります。
   「オッベルときたら、たいしたもんだ。」

 事件の概要
 (1) クラホグル氏(Mr. Kulahoglu)ときたら、たいしたもんだ。
  共同住宅の敷地内を爆音を鳴らしてバイクを走らせて住民のひんしゅくを買っている。
  駐車場の彼の区画に、自動車とバイクを一緒に停めている。
  管理組合から注意されたときの彼の答えはこうだった。
  「管理規約には、停めてはいけないものがコンマで区切ってこう書いてある。
  自家用車以外の商用トラック、オートバイ、キャンピングカー、トレーラー、ボート、スノーモービル
  等々・・いいかい、この商用トラック以下のコンマには、商用というのが省略されているんだ。
  私のは自家用バイクであって商用ではない。」

 (2) 猫のドマテス(Domates)ときたら、たいしたもんだ。
  ドマテスは敷地内を自由に走り回り、芝生やコンドミニアムの共用部分で排泄したり、
  シマリスやウサギなどの小動物を狩ったりして積極的なアウトドア ライフを送っている。

  住民から管理組合に苦情がきているが、飼い主のクラホグル氏に言わせると、彼は自分の
  猫を意図的に外に出しているのではなく、むしろ彼の猫は「非常に断固とした脱走アーティスト」
  (“very determined escape artist”)であり、彼女を屋内に留めるための最善の努力にも
  かかわらず、彼女は自分で住戸からの脱走に成功している。また時々、ネズミを捕獲して
  家に持ち帰ることもある。だが、それは、どこの猫もすることではないかと主張する。

さて、この判決はどうなるでしょうか。

目次
○ コンドミニアム裁判所 判決  (No. 2023 ONCAT 20)
○ 判決理由 (REASONS FOR DECISION) 
   A. 事案の概要 (INTRODUCTION)
   B. 争点と分析  (ISSUES & ANALYSIS)
   C. 判 決     (ORDER)

 

コンドミニアム裁判所 判決 No. 2023 ONCAT 20

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コンドミニアム裁判所 判決

判決日:    2023年2月9日
事件番号:  2022-00479N , 2023 ONCAT 20
事件名:    ラムトン コンドミニアム 管理組合 No. 39 (「LCC 39」) 対 クラホグル
準拠法令:  共同住宅法1998 1.44
裁判官:    ニコール・エイルウィン (コンドミニアム裁判所判事)
原 告:    ラムトン コンドミニアム管理組合No.39 代理人弁護士 ドリーン コープランド
被 告:    エンジン・ クラホグル 代理人弁護士 スー・マンサー 
聴聞:      書面によるオンライン公聴会 2022年10月12日から 2023年1月31日

判決理由 (REASONS FOR DECISION)

 A. 事案の概要(INTRODUCTION)

[1] 原告ラムトン コンドミニアム 管理組合 No. 39 (「LCC39管理組合」) は、 被告の区分所有者エンジン・クラホグル氏が、 コンドミニアムの敷地内でのオートバイの使用と駐車を制限する管理規約の規定、 及び住戸の所有者が猫を屋内で飼うことを要求する規定を遵守しなかったと主張した。

LCC39管理組合はクラホグル氏に対し、コンドミニアムの私道でオートバイを使用することを控え、 駐車場からオートバイを撤去するよう命じる判決を求めた。 管理組合はまた、彼がペットの規則を遵守し、猫を室内で飼うよう命じる判決を求めた。 最後に、LCC39管理組合は、本裁判に要した費用として275 ドルの費用を被告に請求する判決を求めた。

[2] クラホグル氏は、 駐車規則では商用オートバイのみが駐車場に駐車することを禁止されていることを意味するという立場をとっている。

猫の室内飼いのルールについては、室内飼いを試みたがうまくいかなかったという立場をとっている。 彼はまた、彼の猫は複合施設内を自由に歩き回っている唯一の猫ではなく、 したがって彼の猫に同じことをさせたとしても罰せられるべきではないと主張する。

彼は、彼の猫が屋外に出ること、そして規則がこれを禁止しているという事実に異議を唱えていない。

[3] 下記の理由により、 当裁判所はクラホグル氏が LCC39管理組合の駐車規則とペットに関する規則を遵守していないことを認める。 しかし、クラホグル氏がコンドミニアムの私道でオートバイを運転することを規則が禁止しているとは認められない。

当裁判所はクラホグル氏に対し、この決定から15日以内にバイクを駐車場から完全に撤去すること、 猫を室内で飼うことを命じる。 裁判所はまた、LCC39管理組合が本裁判に要した費用275ドルを被告が管理組合に支払う事を命じる。

 

B. 争点と分析 (ISSUES & ANALYSIS)

争点1: 被告は、 駐車場および/または私道およびコンドミニアムの敷地内でのオートバイを禁止する規則を遵守できなかったのか? もしそうなら、裁判所はどのような救済を命じるべきか

[4]  LCC39管理組合によると、クラホグル氏はバイクを指定された駐車場に車と一緒に駐車している。 この事はコンドミニアムの管理規約の3つの条項、規則#33、 第4条および第5条の規定に違反しているというのがLCC39管理組合の立場である。

[5] 規則 #33 には次のように書かれている。
    共用部または指定された駐車場では、居住者が所有する乗用車やバンなどの
    現在使用されている自家用車以外の商用トラック、オートバイ、キャンピングカー、
    トレーラー、ボート、スノーモービル、あらゆる種類の機械または設備は、いかなる
    場所にも駐車または保管することはできない。

[6]  クラホグル氏は、指定された駐車場にバイクと車の両方を駐車していることを否定していない。 規則#33の記述方法により、 商業用オートバイのみが敷地内に駐車することを禁止されているというのがクラホグル氏の立場である。 彼の代理人は、許可されていない車両の項目別リストはコンマで区切られており、 リストの最初の車両は「商用トラック」であるため、 後続のすべての車両は商用車として理解されるべきであると主張した。 彼が停めているのは商用トラックや商用バイクではない。商用キャンピングカー、商用トレーラー、商用ボートでもない。 このように、クラホグル氏のバイクは商用バイクではないため、許可されているものであると主張した。

[7] LCC39管理組合は、一連の項目を区切るためにコンマを使用しているという立場をとっている。 この場合、コンマは、許可されていない車両のリストを区切るために使用されており、 リストされたタイプの車両の駐車を禁止するという規則の意図が明確であることを示している。

[8] 裁判官は、クラホグル氏の主張を採用することができない。規則を簡単に読むと、 記載されている車両が禁止されていることが明らかである。混乱を招くほどあいまいであるとは思わない。 この場合、クラホグル氏の代理人がコンマの文法上の正しい使用に関して行った広範な議論は、規則の単純な誤解ではなく、 コンドミニアムの長年の規則に違反することを許容するような方法で規則を読み取ろうとする試みであるように思われる。

LCC39管理組合の規則の解釈が合理的であると判断し、その解釈に従い、 クラホグル氏に、この決定から 15 日以内にバイクを駐車場から恒久的に撤去するよう命じる。

[9]  LCC39管理組合はまた、 クラホグル氏が私道やコンドミニアムの所有地でバイクを運転することを許可されていないことを法廷に認めさせるよう要請した。 ここで LCC39管理組合は、その騒音規則を引用して、オートバイが不必要な騒音を発生させると主張している。

規則10 は次のとおりである。
  2 他の居住者の快適さや静かな楽しみを妨害する、または妨害する可能性のある装置、
    機器によって引き起こされる迷惑な騒音は許可されない。
    ラジオや楽器は、共用部で使用してはならない。

[10] 規則10に違反しているクラホグル氏を見つけるには、LCC39管理組合が、 クラホグル氏がオートバイで騒音を発していることを立証する必要がある。 コンドミニアム敷地内の私道でのオートバイの運転を明確に制限する規則について、裁判所に提出された証拠はない。 したがって、クラホグル氏はバイクを敷地内に駐車することはできないかもしれないが、 私道などの一般的な場所でバイクを運転することが規則に違反しているとは認められない。

[11] 規則#33 により、クラホグル氏が自分の駐車場にバイクを駐車することはできないと判断したので、 LCC39管理組合の規則により、彼が SVU とバイクの両方を同じスペースに駐車することが可能かという問題を決定する必要はない。彼はバイクをそこに駐車することはできない。


争点 2: 被告は、猫を室内で飼うことを要求する規則を遵守しなかったか?
      その場合、CAT はどのような救済を命じるべきか?

[12] LCC39管理組合は、クラホグル氏が規則#16号に違反していると主張している。
    規則#16号は次のとおりである。
    住戸内またはその周辺、または共用部のいかなる部分にも、犬を乗せたり、
    飼ったりしてはならない。猫は許可されているが、屋内で飼育する必要がある。

[13]  LCC39管理組合は、クラホグル氏の猫であるドマテスに関して、 他の住戸所有者から理事会が受け取ったいくつかの苦情を提出した。 原告は、ドマテスが自由に走り、 芝生やコンドミニアムの共用部分で排泄したり、シマリスやウサギなどの小動物を狩ったりしていると非難している。

[14]  LCC39管理組合は、苦情を受け取った後、 クラホグル氏と数回会って問題について話し合い、彼にコンプライアンスを求めたと主張しているが、 ドマテスは引き続き積極的なアウトドア ライフを送っている。(but Domates continues to live an active outdoor life)

[15] ドマテスが屋外で自由に歩き回るという事実については議論の余地がなく、 LCC39管理組合が猫を屋内に制限する規則を持っているという事実についても議論の余地はない.。 クラホグル氏は、彼の猫が外に出ることを認めている。 しかし、彼は自分の猫を意図的に外に出しているのではなく、 むしろ彼の猫は「非常に断固とした脱走アーティスト」(“very determined escape artist”)であり、 彼女を屋内に留めるための最善の努力にもかかわらず、彼女は自分で住戸から脱走することに成功した.。 クラホグル氏はさらに他の猫が敷地内を歩き回っているのを見て、 LCC39管理組合が自分にだけこの規則を強要することは不公平であると主張している。

[16] 他の住戸の所有者が屋外を歩き回るドマテスによって迷惑をかけられているかどうかは、 規則の遵守を決定する基準ではない。

クラホグル氏の隣人の中には、彼が提出した証人陳述書から明らかなように、 ドマテスが屋外に出ることを問題視していない人もいれば、 理事会への苦情やLCC39管理組合から提出された証人陳述書からも明らかなように、問題を抱えている人もいる。

LCC39管理組合がコンドミニアム法1998(「法」) の17条(3) の規定の下で、その規則を施行する必要があるというのは正しい。 さまざまな住戸所有者がクラホグル氏の猫についてどのように感じているかに関係なく、規則#16 を遵守する必要がある。

[17] 規則#16 は、猫は屋内で飼うべきだと明確に述べている。法第119 条第1項により、 住戸の所有者はコンドミニアムの規則を遵守する必要があると規定している。 この場合、それは「逃げる」傾向があるかもしれない猫であっても、猫を屋内に保つことを意味する。 場合によっては、猫が住戸を離れて屋外にいることに気付くことがある。 しかし、この場合の証拠は、ドマテスが屋外を自由に歩き回る進行中の繰り返しパターンを示している。

特に、クラホグル氏が書いて隣人に回覧した手紙を考えると、 ドマテスがそのような頻度で自力で逃げているということも信用できないと思われる。 この手紙の中で、クラホグル氏は、ドマテスが時々「歩き回り」、小さなネズミを狩り、家に持ち帰る事実を認め, これは自分がやったのではなく、「猫がしたこと」と説明している。

[18] 最後に、クラホグル氏が主張するように、LCC39管理組合が不公平に規則を施行し、 彼を不当に標的にしていると示唆する証拠は認められない。 クラホグル氏は、敷地内に他の猫がいるのを見たことがあると主張し、取締りの対象になる可能性があるため、 理事会は彼を監視していると主張している。

どちらの主張も説得力があるとは思えない。LCC39管理組合が指摘しているように、 誰が所有しているかに関係なく、すべての猫をコンドミニアムの敷地から遠ざけることを保証する責任はない。 管理組合は、住戸所有者に適用されるコンドミニアム規則の遵守のみを施行できる。 この場合、彼らは住戸の所有者からクラホグル氏の猫に関する非常に具体的な苦情を受けており、 この特定の状況で規則を施行しようとすることで、それらの苦情に対処した。 これは規則の恣意的な実施ではない。 しかも、一方ではLCC39管理組合は明らかに証拠を集めている。

[19] 上記の理由から、クラホグル氏は、 猫を室内で飼うことを要求するルール #16 に違反していると判断する。法第119条第1項により、 クラホグル氏は既に規則を遵守する必要があるが、不確実性が生じないように、 裁判所は彼に規則#16を遵守し、猫を室内で飼うよう命じる。

ドマテスが規則とこの命令に従わなかった場合、 LCC39管理組合はその規則を強制するために利用可能なあらゆる合法的な措置を取る権利があるため、 クラホグル氏には、ドマテスが引き続き「逃亡」しないようにするために必要なあらゆる手段を講じることをお勧めする。


争点 3: 原告は、当法廷に支払われた手数料の払い戻しを受ける権利があるか?

[20] LCC39管理組合 は、裁判所への提出費用として 275 ドルの費用を請求した。 事件が第3段階(裁定)に移行すると、原告が支払う典型的な申請手数料は 200 ドルになる。 ただし、この場合、これらの当事者が関与する 2 つの訴訟は、第3段階の裁判所の決定の前に併合された。 そのため、LCC39管理組合 は、訴訟が併合される前に、第2の訴訟を提起し、第2段階の調停に持ち込むために、 追加の75 ドルの仲裁手数料を支払っている。 したがって、ここで決定された問題に対処するために当法廷に費やされた総額は275 ドルである。

[21] 法廷が費用を命じる権限は、裁判所実務規則に規定されている。 法律の1.44(2) は、費用の命令は「…裁判所の規則に従って決定されるものとする」と述べている。 裁判実務規則48.1 は、当事者が勝訴した場合、 裁判費用は敗訴した当事者から回収できると規定している。 本裁判ではLCC39管理組合が勝訴し、裁判に支払われた料金を回収する権利がある。 裁判所は、この決定から30日以内に、クラホグル氏に対し、 LCC339管理組合の裁判費用275 ドルを払い戻すよう命じる。


C. 判 決 (ORDER)

下記をもって判決とする 
   1.法第 1.44(1)1に従い、クラホグル氏は、この決定から 15 日以内に駐車場からバイクを
     永久に撤去し、LCC39管理組合の規則#33を遵守すること。

   2.法第 1.44(1)1に従い、クラホグル氏は、猫を屋内で飼うことを要求するLCC39管理組合
     の規則 #16 を遵守すること。

   3.法第 1.44(1)4および当裁判所実務規則の規則48.1に従い、この決定から 30日以内に、
     クラホグル氏は、LCC39管理組合に275 ドルを支払うこと。

裁判官 ニコール・エイルウィン (コンドミニアム裁判所判事)
公開日:2023年2月9日コンドミニアム裁判所
Nicole Aylwin Member, Condominium Authority Tribunal Released on: February 9, 2023


(以上 マンションNPO 訳)       (2023年2月22日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 22 February 2023/ Revised Publication -time to time)